おまけ

よ、よく気づきましたね……!

出られない部屋


 真っ白な壁と、開けられないドアだけが存在する部屋。私と幼馴染は、気づいたらここにいた。
 ドアの頭上に、謎の言葉が書かれている。
 『大きな声で笑わないと出られない部屋』
 私は、隣にいる幼馴染と顔を見合わせた。
 まだ何も言っていないのに、彼はゾンビの如く両手を前に出しながら、こちらに近づいてくる。指をわきわきとさせながら。
「たまにはさ、笑ってるところ見たいなー?」
 意地の悪い笑みを浮かべている。
「……何するつもり」
 私は、一歩後ずさった。
「えー? 分かるでしょー? いつもしてくるんだからぁ」
 彼は、ケラケラ笑いながら、さらに接近してくる。背中にはひんやりとした硬いコンクリート。体格差的に取り押さえられたらおしまいだ。
 よく考えてほしいのだが、私は自発的にくすぐったりしていない。どこかの誰かさんが、「くすぐり特訓!」と提案してきたから、仕方なく付き合っていただけだ。
 私は、小さくため息をこぼした。
「……分かった」
「よーし! こちょこちょだー!」
 彼の指先が脇腹に触れる。小さな悲鳴が出そうになるのを堪え、幼馴染の手首を私は素早く、ぐっと握った。
「ま、待った。勝負しましょ」
「勝負?」
 幼馴染が、きょとんと首を傾げた。
「そう。この部屋から早く出るために、どっちの笑い声が大きいか勝負」
「同時にくすぐんの?」
「それだったら、どっちが大きいか分からないでしょ。交代制。じゃあ、私が先攻で。どうぞ」
 私が両腕を真横に広げてみせると、彼は訝しげに眉をひそめる。
「……え? これ、先攻後攻って、どっちが有利なん?」
「そりゃ、先攻でしょう」
「あっぶねー!!」
 彼は大げさに、両手で頭を抱えた。
「いや、あんまりにもスムーズに先攻選ぶから、怪しいと思ったんだよ!! ずるいぞ、オレよりちょっと頭いいからって!!」
「別に、譲ってあげてもいいけど?」
 私は、わざとらしく肩をすくめた。幼馴染の目がキラリと光る。
「まじ!? じゃあ、先攻!!」
「じゃあ、危ないから床に万歳して寝て」
「はいはーい!」
 彼は、素直に床に寝転んだ。真っ直ぐに伸ばした腕。その上に私は、そっと正座した。
 これで彼は逃げることができない。
「じゃあ、始めるから」
 私は、そう静かに告げた。
 ピンッと伸ばされた腋に両手を伸ばす。遠慮する必要はない。初手から、彼の弱点を狙わせてもらう。
 腋の下──胸の付け根近くに、十本の指先を這わせた。そして、バラバラに、撫でるくらいの優しさで触れる。それが苦手なようだから。
「あっはははっ!! わきダメぇへへへ!! はんそくっ、っはははは!!」
 瞬間、彼の身体が激しく捻れた。
 その反動で、私の身体がグラつきそうになる。私は腕の上にしっかりと体重をかけて、なんとか耐えた。
「ひゃっははは!! こうたいっ、っひひひひ!! もうっ……おわりぃぃいい!! あっははははははっ!!」
 彼は両足をバタバタと地面に叩きつけながら叫ぶ。
「うへへへへ!! ねぇ……きいて、っひゃひゃ!? きいてんのぉ!? ぷっははははっ!!」
 彼が必死に訴えかけてくる。
 はて? なんのことだろう。
「もうちょっとで、ドア開くんじゃない? 頑張って」
 私は、指先を動かし続けた。シャツ越しに、熱い体温が伝わってくる。
「はなしがっ、っはははは!! ちがっ、ぅひひひひひ!? まって……ぇへへへへ!!」
 というか、こんなゲームに先攻後攻のどっちが有利かなんて、あるわけない。先攻が好き勝手されるに決まっている。
 このように。
「わきっ、わきやめてっ!! おねがいっひひひひひ!! そこむりぃぃ……ぃやっはははは!!」
 彼は頬を真っ赤に紅潮させながら、懇願してくる。笑いっぱなしで開かれたままの口から、涎も垂れている。自称「クラスの顔担当」とは思えない、だらしのないお顔だこと。
「ふふ」
 思わず笑いが漏れた、その瞬間。ひときわ大きな解除の音が響いた。条件を達成したらしい。
 私は、一旦手を止めた。
「はぁっ、……ふぅ……ごほっ、はぁはぁっ…………」
 幼馴染は、乱れた息を必死に整えている。お腹が膨らんだり、へこんだりを繰り返す。
「…………おぼえとけよ……」
 しばらくして、彼が涙目で私を睨みつけてきた。
「同じ目に、あわせてやるからなぁ……」
 その声は弱々しく、掠れている。
「ふーん」
 私は再び腋に指を這わせた。
「ぃっひひひ!?」
 彼の身体が、陸に打ち上げられた魚のように跳ねる。
「だったら、仕返しする体力奪っておかないとね」
「うっははは!! うそですうそですっ!! ひゃっはははは!! しませ、んっははは!? しませんからぁあああ!!」
「本当に?」
 私は、わざと疑わしげな声で尋ねた。
「ほんとにぃぃ、ぃっひひひ!! やめてっ、おねがい……ぶっ、はははは!! しぬっ……、ぁっはははははっ!! ごめんなさいいいいい!!」
👏パチパチ