おまけ

よ、よく気づきましたね……!

花火大会なんて口実


「ここよ。花火がよく見えるのは」
 お嬢様に手を引かれて訪れたのは、小さな神社だった。鳥居は苔まみれで、長年人の手が入っていないように見える。彼女に案内されなければ、気づくこともなかっただろう。
 月明かりのおかげで、ぼんやりと周囲を確認できる。先ほど、本殿で手を合わせてきた。少々不躾とは思いつつ、彼女とともに私は石段に腰を下ろした。
「お疲れではありませんか? 長い道のりでしたから」
「平気よ。それより……可愛い浴衣でしょ?」
 両手を広げて裾を翻す。白色の生地に、桃色の牡丹が咲き誇っている。その浴衣は闇の中でも輝いていた。
 それに加え、普段は下ろされている髪が、編み込みでまとめられている。そこから覗く、項の肌の白さ。それが、妙に眩しい。普段は見られない場所だからこそ、余計に。
「……ええ、とてもお似合いです」
「ふふ。ありがとう」
 肩に柔らかな重みが乗った。お嬢様が、頭を預けてきたのだ。ミルクのように甘く、蜜のごとく吸い寄せられそうな香り。
 心臓が、ドクンと大きく跳ねた。私は、思わず生唾を飲み込んだ。
「貴方の浴衣も、よく似合ってるわ」
「ありがとうございます……」
 私は、視線を彷徨わせる。
 灰色の浴衣を仕立ててもらったが、普段の燕尾服とは違い、正直なところ身体に密着せず、風が通りすぎて落ち着かない。
 しかし、これは全てお嬢様の指示だった。せっかくの花火鑑賞なのだから、執事として隣にいてほしくない。仕事ではなく一緒に楽しんでほしい、と。
「私ね、浴衣好きなの」
 お嬢様が、何気なく言った。
「そう、ですか」
 遠くで、空気を震わせるような音が響いた。花火大会が始まったようだ。
「だって……」
 ゾクリと、背中が反った。お嬢様の冷たい手が浴衣の懐から忍び込み、熱の籠もった肌に触れてきたからだ。
「ひっ……!」
 思わず、小さな悲鳴が漏れた。
「こうやって手が入れやすいもの」
​「……ふふっ、お嬢様……いっ、いたずらが、過ぎます……くくっ」
 私は、震える声で必死に取り繕おうとした。だが、容赦なく柔らかい場所を抉る指先に、膝がガクガクと震え始める。
「汗かいてるわね。暑い?」
 お嬢様が、普段の調子で尋ねてくる。現在進行形で弄んでいるようには思えない。
 確かに夜とはいえ、まだ夏の暑さが空気の中に渦巻いている。ただ、今は違う意味で汗をかきそうなんだが……!!
「うひっ……ダメ、ですっ。野外で……ははっ!」
 こんな行為、令嬢にさせてはならない。真剣に注意を促そうとする。けれど、腋の奥をグニグニと指先で刺激されると、笑いが抑えられない。
「大丈夫よ。誰も来ないわ」
「そういう話では……んんっ!!」
 私の抗議は、笑いに遮られる。
「それに」
 お嬢様の熱い吐息が、私の耳に触れた。
「みんな、花火に夢中よ。私たちのことは……誰の目にも映らない」
 夜空には、大輪の火花が次々と咲き乱れている。
「あははっ、ひぃっ……!? んひひっ……!!」
 花火の音に紛れて、情けない声が夜の境内に溶けていく。私の世界はもう、腋の下を蹂躙する彼女の指先だけで満たされていた。
「かわいい声……もっと、聞かせて?」
👏パチパチ