時期外れのハロウィンで幼馴染から焦らされる 「トリックオアトリート」 幼馴染が真顔で手のひらを差し出した。 抑揚のない声で言われると、イタズラどころか命をかっさらってきそうな雰囲気だ。窓の外から差し込む午後の光が、彼女の少し長い前髪を照らしている。 にしても、幼馴染がこんなことしてくるなんて珍しい。都会のハロウィン中継をゴミを見るような目で眺める人間が。毎年「いい歳した男女がコスプレして騒ぐのがハロウィンだっけ?」と毒づく人間が。まさか自らイベントに参加してくるとは。 それよりも、もっと問題なことは。「……いや、もう何週間すぎたと思ってんの!? 今十一月中旬!! 用意してるわけねーじゃん!!」 オレは思わず声を荒げた。自分の部屋ならまだしも、幼馴染の部屋にオレのお菓子なんて常備してないし。 本来行われるべき十月三十一日には、いつもより早く流行したインフルエンザによって、オレは完全にダウンしていた。あの日は熱で朦朧としながらベッドで唸っていたのを、今でも覚えている。「ないの?」 彼女は淡々と確認する。というか、分かってて言ってるだろ、絶対!「ないって!」「じゃあ、悪戯で」 もっと楽しそうに言えばいいものを、裁判官が判決を下すように宣告してくる。その無表情さが逆に怖い。「頭に両手乗せて」 低く、静かな命令口調。 そこで、ピンときた。この流れ、この雰囲気、そしてこのポーズ。「あー!! こちょこちょする気だー!! えっちぃぃ!!」 オレは自分の身体を抱きしめながら、反撃に出た。腕で胸元をガードし、やや大げさに身を縮める。どうだ、少しは戸惑うだろう。照れたり、困ったり、何か反応してくれるはずだ。 けれど、予想に反し、彼女は怪訝そうに眉をしかめた。その表情には困惑が浮かんでいる。「……しないよ?」 え?「そんなことしないから。何言ってるの」 彼女は冷ややかな目つきで見つめてくる。 え? しないの? 一瞬、部屋に沈黙が落ちた。時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえる。 え? なんでオレが辱めにあってんの? そう思いながらも、彼女の『早くしろ』という圧に押されて、渋々両手を頭に乗せる。この格好、すごく無防備で落ち着かない。脇腹も、腋も、全部さらけ出している。 幼馴染が音を立てずに、隣に近づいてくる。彼女の両手が、ゆっくりと持ち上げられた。十本の指がそれぞれ自我を持ったかのように、微妙に曲げ伸ばしされながら、オレの横腹へと迫ってくる。「くすぐんのかよ!?」 話と違うじゃん! 思わず叫びながら、オレは身体を彼女がいる反対側に反らした。両手は頭の上に置いたまま、上半身だけを必死に捻る。「しないけど?」 彼女は平坦な声で返す。 じゃあ、その両手はなんなんだよ! とツッコみたいところだけれど、確かにくすぐってはいない。よく見れば、十本の指は脇腹の数センチ手前で止まっている。触れていない。ただ、そこに存在しているだけ。 指先が僅かに揺れるたびに、皮膚が反応する。触れられてもいないのに、そこに意識が集中してしまう。「はははっ!! まって、まって!!」 声が勝手に漏れる。笑い声というより、悲鳴に近い。身体が自然と震えてしまう。「だから触ってないでしょ」 彼女は事実を淡々と告げる。けれど、その指先はじわじわとオレのお腹に近づいてくる。あと二センチ。いや、一センチ? これはこれできつい。 だって、指が皮膚に触れたとき、どうなるかが分かってしまっているから。 笑わずにはいられないほどの刺激が身体中を走るのだ。体温が一気に熱くなって、目から涙が溢れて、何も考えられなくなる。息も上手く吸えなくなって、ただただ笑い続けるしかない──。 なんでこちょこちょって、こんなにつらいの? おかしくない? いや、おかしいのはオレの方なのか。まだ何もされてないのに、こんなに動揺してる。 彼女の指先が、また少しだけ近づいた気がした。いや、気がしたんじゃない。確実に近づいている。 そして今度は、指先がゆっくりと上がっていく。脇腹から、肋骨のラインに沿って。さらに上へ。大きく開かれた腋の前で、ぴたりと止まった。「んははっ!! こら!! やめなさいっ!!」 声が裏返る。まだ触れられてもいないのに、笑い声が止まらない。腋──ここが一番ダメなのだ。自分でも分かってる。「何もしてないってば」 彼女は淡々と事実を述べる。そんなこと言ったって……! そういえば前もくすぐられたことあったような。そうだ、彼女のアクスタを誤って壊したときだ。 あの日、背中に乗っかられて、閉じられない腋を好きなように弄くられて……ああ、思い出したら余計くすぐったくなってくる!! あのときの感触が、皮膚に焼き付いているみたいだ。 不意に、右肘を掴まれた。「ひっ!」 彼女の左手が、オレの肘をしっかりと固定する。逃げられない。そして右手の人差し指が、腋の窪みの数ミリ手前で、ゆっくりとぐるぐると円を描き始めた。 触れていない。けれど、空気が動いているのが分かる。「ここが弱いんだっけ?」 初めて、彼女の声に僅かな感情が混じった。探究心か、それとも──愉しんでいるのか?「ぃやっはは!! 性格わるっ……!」「そういえば、なんでそんな見てるの?」「うへっ!?」「触らないわけだし、目閉じたら?」 え? 確かに! そうだ、見なければいいんだ。視覚情報を遮断すれば、少しは楽になるかもしれない。 言われるがまま、オレは瞼をぎゅっと力を込めた。にしても、バカだなぁ。攻略法を教えちゃうなんて──。「こちょこちょ……」 囁くような声が、すぐ耳元で聞こえた。「えへっ!?」 身体がビクリと硬直する。見えないことで、逆に聴覚が研ぎ澄まされてしまった。彼女の吐息、衣擦れの音、そして指が動く気配。「ふっはは!! だめだめだめっ!!」 目を閉じたことで、むしろ想像力が暴走し始める。今、指はどこにあるんだ? 何センチ離れてる? もう触られてる? 堪らず目を開ける。 幼馴染の顔が、思いのほか近くにあった。普段は無表情に見えるその顔が、よく見ると口の端が、ほんの少しだけ上がっている。 罠にはめやがって……!「もう一思いにやってよ……!!」 半ば自暴自棄になって叫ぶ。こうやって焦らされる方が、実際にやられるよりきついかもしれない。そんな思考に陥ってしまった。 幼馴染の指が、ピタッと止まった。「分かった」 低く、静かな声。「ひゃっはははっ!!」 指先が、ついに腋の窪みに食い込んできた。 柔らかく、そして容赦なく。十本の指が別々の生き物のように、腋の敏感な皮膚を撫で回す。軽く、でも確実に。爪先が窪みの奥まで侵入してくる感触。「ぃゃっはははっ!? むりむりむりぃ、っひひひひ!! やっぱむりぃ!!」 電流が走ったみたいに、全身が跳ね上がる。 両手を上げたままにしておけるはずもなく、反射的に腕を締めた。ガードしなきゃ、守らなきゃ。「ぶはっ! ぁっははははは!? ちょっ……もう……っははは!! うへへへっ!!」 でも、遅い。 だって、彼女の手は挟まったまま。腋の中に閉じ込められた指先は、逃げ場を失ったオレの急所を好きなように攻め立てる。 爪先でグニグニと、窪みの柔らかい部分を押し込むように刺激される。「やっ……あっははははは!! ギブっ、ギブぅへへへ!?」 言葉にならない。笑い声と悲鳴が混ざって、何を言ってるのか自分でも分からない。涙が滲んできて、視界がぼやける。息が、上手く吸えない。「ぎゃはははははっ!! あ、あはははっ!! や、やめろぉ……っひゃはははは!! っは、ははははは!!」 誰だ、焦らされる方がきついなんて言ったやつは。どう考えてもくすぐられる方がきついだろ!? 必死に彼女の手首を掴んで、なんとか腋から指先を引き剥がす。「んっ……はぁ……こちょこちょしないって言ったじゃん!!」 ようやく言葉が出てくる。抗議の声は、まだ少し震えている。「やって、っていったのはそっちじゃん」 彼女は悪びれた様子もなく、平然としている。ああ言えばこう言うんだから……。 そうだ、こうなったら!「トリックオアトリート!!」 まだ荒い息のまま、今度はオレが手のひらを差し出した。やられっぱなしで終われるか。 幼馴染はテーブルに置いてあった菓子受けから、小さな包みを一つ取り出す。誰をも虜にする粉が降りかかった、あのお菓子。「ダメだね!! これはお母様が用意したものだから!! 自分で用意したもんじゃなきゃ!!」 オレは勢いよく頭を左右に振って拒否する。 幼馴染が、面倒くさいとでも言いたげな視線を浴びせてくる。そんなの無視無視。「あれー?? ないのー?? ないのかなー?? じゃあトリックかなー?? トリックしちゃおうかなー??」 両手をわきわきさせながら、距離を縮めていく。どうだ、さっきの仕返しだ。 はぁ、と深い溜息を吐いた幼馴染は、何も言わずに立ち上がった。 そして、部屋の隅に置いてあった、パンパンに膨れ上がったリュックサックを持ってくる。見るからに重そうだ。何が入ってるんだ、これ?「なにこれ?」 彼女は返答せず、代わりに黙々とチャックを開けた。中身が見えた瞬間、オレは息を呑んだ。 銀色の平べったい長方形の袋が、びっしりと詰め込まれている。一つや二つじゃない。数十個──いや、もっとあるかもしれない。見覚えのある包装だった。「……チョコ」「なんでこんなにあんの……?」 オレの問いに、幼馴染は少しだけ眉を下げた。普段の無表情から、ほんの僅かに変化したその表情。そして、ポツリと小さく呟いた。「…………推しのポスター、欲しかった、から……」 ああ。そういうことか。 時期外れのハロウィンは、これを消費するためだったのか。 推しのコラボキャンペーンで大量買いしてしまったんだろう。そして今、処理に困っているのだ。「……で、オレに?」 幼馴染は無言で頷いた。少しだけバツが悪そうな様子で。「これもうトリックじゃん……」「トリート」「限度あるって……」 👏パチパチ 2025.11.20(Thu) 幼馴染
時期外れのハロウィンで幼馴染から焦らされる
「トリックオアトリート」
幼馴染が真顔で手のひらを差し出した。
抑揚のない声で言われると、イタズラどころか命をかっさらってきそうな雰囲気だ。窓の外から差し込む午後の光が、彼女の少し長い前髪を照らしている。
にしても、幼馴染がこんなことしてくるなんて珍しい。都会のハロウィン中継をゴミを見るような目で眺める人間が。毎年「いい歳した男女がコスプレして騒ぐのがハロウィンだっけ?」と毒づく人間が。まさか自らイベントに参加してくるとは。
それよりも、もっと問題なことは。
「……いや、もう何週間すぎたと思ってんの!? 今十一月中旬!! 用意してるわけねーじゃん!!」
オレは思わず声を荒げた。自分の部屋ならまだしも、幼馴染の部屋にオレのお菓子なんて常備してないし。
本来行われるべき十月三十一日には、いつもより早く流行したインフルエンザによって、オレは完全にダウンしていた。あの日は熱で朦朧としながらベッドで唸っていたのを、今でも覚えている。
「ないの?」
彼女は淡々と確認する。というか、分かってて言ってるだろ、絶対!
「ないって!」
「じゃあ、悪戯で」
もっと楽しそうに言えばいいものを、裁判官が判決を下すように宣告してくる。その無表情さが逆に怖い。
「頭に両手乗せて」
低く、静かな命令口調。
そこで、ピンときた。この流れ、この雰囲気、そしてこのポーズ。
「あー!! こちょこちょする気だー!! えっちぃぃ!!」
オレは自分の身体を抱きしめながら、反撃に出た。腕で胸元をガードし、やや大げさに身を縮める。どうだ、少しは戸惑うだろう。照れたり、困ったり、何か反応してくれるはずだ。
けれど、予想に反し、彼女は怪訝そうに眉をしかめた。その表情には困惑が浮かんでいる。
「……しないよ?」
え?
「そんなことしないから。何言ってるの」
彼女は冷ややかな目つきで見つめてくる。
え? しないの?
一瞬、部屋に沈黙が落ちた。時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえる。
え? なんでオレが辱めにあってんの?
そう思いながらも、彼女の『早くしろ』という圧に押されて、渋々両手を頭に乗せる。この格好、すごく無防備で落ち着かない。脇腹も、腋も、全部さらけ出している。
幼馴染が音を立てずに、隣に近づいてくる。彼女の両手が、ゆっくりと持ち上げられた。十本の指がそれぞれ自我を持ったかのように、微妙に曲げ伸ばしされながら、オレの横腹へと迫ってくる。
「くすぐんのかよ!?」
話と違うじゃん!
思わず叫びながら、オレは身体を彼女がいる反対側に反らした。両手は頭の上に置いたまま、上半身だけを必死に捻る。
「しないけど?」
彼女は平坦な声で返す。
じゃあ、その両手はなんなんだよ!
とツッコみたいところだけれど、確かにくすぐってはいない。よく見れば、十本の指は脇腹の数センチ手前で止まっている。触れていない。ただ、そこに存在しているだけ。
指先が僅かに揺れるたびに、皮膚が反応する。触れられてもいないのに、そこに意識が集中してしまう。
「はははっ!! まって、まって!!」
声が勝手に漏れる。笑い声というより、悲鳴に近い。身体が自然と震えてしまう。
「だから触ってないでしょ」
彼女は事実を淡々と告げる。けれど、その指先はじわじわとオレのお腹に近づいてくる。あと二センチ。いや、一センチ?
これはこれできつい。
だって、指が皮膚に触れたとき、どうなるかが分かってしまっているから。
笑わずにはいられないほどの刺激が身体中を走るのだ。体温が一気に熱くなって、目から涙が溢れて、何も考えられなくなる。息も上手く吸えなくなって、ただただ笑い続けるしかない──。
なんでこちょこちょって、こんなにつらいの? おかしくない?
いや、おかしいのはオレの方なのか。まだ何もされてないのに、こんなに動揺してる。
彼女の指先が、また少しだけ近づいた気がした。いや、気がしたんじゃない。確実に近づいている。
そして今度は、指先がゆっくりと上がっていく。脇腹から、肋骨のラインに沿って。さらに上へ。大きく開かれた腋の前で、ぴたりと止まった。
「んははっ!! こら!! やめなさいっ!!」
声が裏返る。まだ触れられてもいないのに、笑い声が止まらない。腋──ここが一番ダメなのだ。自分でも分かってる。
「何もしてないってば」
彼女は淡々と事実を述べる。そんなこと言ったって……!
そういえば前もくすぐられたことあったような。そうだ、彼女のアクスタを誤って壊したときだ。
あの日、背中に乗っかられて、閉じられない腋を好きなように弄くられて……ああ、思い出したら余計くすぐったくなってくる!!
あのときの感触が、皮膚に焼き付いているみたいだ。
不意に、右肘を掴まれた。
「ひっ!」
彼女の左手が、オレの肘をしっかりと固定する。逃げられない。そして右手の人差し指が、腋の窪みの数ミリ手前で、ゆっくりとぐるぐると円を描き始めた。
触れていない。けれど、空気が動いているのが分かる。
「ここが弱いんだっけ?」
初めて、彼女の声に僅かな感情が混じった。探究心か、それとも──愉しんでいるのか?
「ぃやっはは!! 性格わるっ……!」
「そういえば、なんでそんな見てるの?」
「うへっ!?」
「触らないわけだし、目閉じたら?」
え? 確かに!
そうだ、見なければいいんだ。視覚情報を遮断すれば、少しは楽になるかもしれない。
言われるがまま、オレは瞼をぎゅっと力を込めた。にしても、バカだなぁ。攻略法を教えちゃうなんて──。
「こちょこちょ……」
囁くような声が、すぐ耳元で聞こえた。
「えへっ!?」
身体がビクリと硬直する。見えないことで、逆に聴覚が研ぎ澄まされてしまった。彼女の吐息、衣擦れの音、そして指が動く気配。
「ふっはは!! だめだめだめっ!!」
目を閉じたことで、むしろ想像力が暴走し始める。今、指はどこにあるんだ? 何センチ離れてる? もう触られてる?
堪らず目を開ける。
幼馴染の顔が、思いのほか近くにあった。普段は無表情に見えるその顔が、よく見ると口の端が、ほんの少しだけ上がっている。
罠にはめやがって……!
「もう一思いにやってよ……!!」
半ば自暴自棄になって叫ぶ。こうやって焦らされる方が、実際にやられるよりきついかもしれない。そんな思考に陥ってしまった。
幼馴染の指が、ピタッと止まった。
「分かった」
低く、静かな声。
「ひゃっはははっ!!」
指先が、ついに腋の窪みに食い込んできた。
柔らかく、そして容赦なく。十本の指が別々の生き物のように、腋の敏感な皮膚を撫で回す。軽く、でも確実に。爪先が窪みの奥まで侵入してくる感触。
「ぃゃっはははっ!? むりむりむりぃ、っひひひひ!! やっぱむりぃ!!」
電流が走ったみたいに、全身が跳ね上がる。
両手を上げたままにしておけるはずもなく、反射的に腕を締めた。ガードしなきゃ、守らなきゃ。
「ぶはっ! ぁっははははは!? ちょっ……もう……っははは!! うへへへっ!!」
でも、遅い。
だって、彼女の手は挟まったまま。腋の中に閉じ込められた指先は、逃げ場を失ったオレの急所を好きなように攻め立てる。
爪先でグニグニと、窪みの柔らかい部分を押し込むように刺激される。
「やっ……あっははははは!! ギブっ、ギブぅへへへ!?」
言葉にならない。笑い声と悲鳴が混ざって、何を言ってるのか自分でも分からない。涙が滲んできて、視界がぼやける。息が、上手く吸えない。
「ぎゃはははははっ!! あ、あはははっ!! や、やめろぉ……っひゃはははは!! っは、ははははは!!」
誰だ、焦らされる方がきついなんて言ったやつは。どう考えてもくすぐられる方がきついだろ!?
必死に彼女の手首を掴んで、なんとか腋から指先を引き剥がす。
「んっ……はぁ……こちょこちょしないって言ったじゃん!!」
ようやく言葉が出てくる。抗議の声は、まだ少し震えている。
「やって、っていったのはそっちじゃん」
彼女は悪びれた様子もなく、平然としている。ああ言えばこう言うんだから……。
そうだ、こうなったら!
「トリックオアトリート!!」
まだ荒い息のまま、今度はオレが手のひらを差し出した。やられっぱなしで終われるか。
幼馴染はテーブルに置いてあった菓子受けから、小さな包みを一つ取り出す。誰をも虜にする粉が降りかかった、あのお菓子。
「ダメだね!! これはお母様が用意したものだから!! 自分で用意したもんじゃなきゃ!!」
オレは勢いよく頭を左右に振って拒否する。
幼馴染が、面倒くさいとでも言いたげな視線を浴びせてくる。そんなの無視無視。
「あれー?? ないのー?? ないのかなー?? じゃあトリックかなー?? トリックしちゃおうかなー??」
両手をわきわきさせながら、距離を縮めていく。どうだ、さっきの仕返しだ。
はぁ、と深い溜息を吐いた幼馴染は、何も言わずに立ち上がった。
そして、部屋の隅に置いてあった、パンパンに膨れ上がったリュックサックを持ってくる。見るからに重そうだ。何が入ってるんだ、これ?
「なにこれ?」
彼女は返答せず、代わりに黙々とチャックを開けた。中身が見えた瞬間、オレは息を呑んだ。
銀色の平べったい長方形の袋が、びっしりと詰め込まれている。一つや二つじゃない。数十個──いや、もっとあるかもしれない。見覚えのある包装だった。
「……チョコ」
「なんでこんなにあんの……?」
オレの問いに、幼馴染は少しだけ眉を下げた。普段の無表情から、ほんの僅かに変化したその表情。そして、ポツリと小さく呟いた。
「…………推しのポスター、欲しかった、から……」
ああ。そういうことか。
時期外れのハロウィンは、これを消費するためだったのか。
推しのコラボキャンペーンで大量買いしてしまったんだろう。そして今、処理に困っているのだ。
「……で、オレに?」
幼馴染は無言で頷いた。少しだけバツが悪そうな様子で。
「これもうトリックじゃん……」
「トリート」
「限度あるって……」