くすぐりフェチと白状するまで恋人からくすぐられる 恋人が初めてお泊まりに来た。 洗面台の前で鏡に映る自分と向き合い、顎に手を当てて考え込む。髪、ある程度濡れた方がいいか?『ちゃんと乾かさなきゃダメだよ』って、彼女が心配そうにドライヤーをかけてくれる展開……あり。ありでしかない。 タオルである程度の水気を拭い、清潔感のある白いTシャツとネイビーのスウェットに着替える。鏡で全身をチェックしながら、首筋に一吹き、お気に入りの香水をかけた。ほのかに広がる柑橘系の香り。よし、完璧だ。 俺が初めての恋人だと言っていたし、スマートに、紳士的に、優しくリードしなければ。深呼吸を一つ。気合を入れて、両手で自分の頬を軽く叩く。 さあ、準備万端だ! 廊下を歩いていると、扉の向こうから笑い声が聞こえてくる。明るい声だ。なにか面白い番組でもやってるのかな。微笑みながらドアノブに手をかける。 部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、その笑い声が彼女のものではないことに気づいた。男の、甲高い、必死な笑い声が部屋中に響き渡っている。耳に馴染んだ、何度も何度も聞いた声──まさか。 嫌な予感に背筋が凍る。恐る恐る視線をテレビへ移すと、頑丈な台に四肢を拘束された男が、複数の女性たちに腋を容赦なくくすぐられていた。「やめっ、あはははっ!! むり、むりっ!!」と叫びながら、身体をくねらせて笑い転げる姿。見覚えのある画面構成。見覚えのある展開。血の気が引いていく。 ああ、知ってる。この動画、知ってる。 ベッドを背もたれに体育座りしている彼女は、無言のまま画面を凝視している。ぴくりとも動かない。スマホを膝の上に置いたまま、じっと。感情を読み取れない横顔が、かえって恐ろしかった。 まずい、まずい、まずい!! 心臓が激しく鳴り始める。 こっちに気づいた彼女が、ゆっくりと、本当にゆっくりと顔を上げた。 馬鹿にされるか? 気持ち悪がられるか? それとも何も言わずに帰ってしまうのか? 脈拍が耳の奥で響く。喉がからからに乾いた。「……こういうの、興味あるの?」 彼女が小首を傾げる。その問いかけには、嫌悪の感情も、茶化すような雰囲気も、驚きさえもなかった。ただ純粋に、事実を確認したいという口調。それがかえって怖い。「ち、違う違う!!」 声が裏返った。つい反射的に否定してしまう。いや、でも、「はい、そうです」とは言えないだろう。さすがに。初めてのお泊まりで。「あのー、あれだよあれ! なんか勝手に動画再生されたの! 勝手に!」 必死に両手を振りながら弁解する。「勝手に?」 彼女が静かに繰り返す。その澄んだ瞳がじっとこちらを見つめてくる。「そ、そう! 笑える動画流してってAIにお願いしたらこれ再生されてさー! いやいや、俺が笑いたいんだけどー! なんてツッコんだりしてー! ははっ!!」 自分でも何を言っているのかわからない。言い訳が支離滅裂だ。 画面では今もなお、男が必死に笑い続けている。「あはは、もう、もうやめっ!!」という悲鳴じみた笑い声。 駆け足でテレビに近寄り、リモコンを探すのももどかしく、テレビのコンセントを引っこ抜いて電源を切った。部屋に突然訪れた静寂。自分の荒い息遣いだけが聞こえる。 これでなんとか誤魔化せて──るわけないだろ。 冷や汗が背中を伝う。ああ、終わった。専用のアカウント、ログアウトするの忘れてた。履歴も、おすすめ動画も、全部そのまま。そんで俺が彼女の人生からログアウトするの? ははっ、笑えない。全然笑えない。 沈黙が部屋を支配する。時計の秒針の音さえ聞こえてきそうなほどの静けさ。「ねぇ」 低く、穏やかな声。 肩が震える。恐る恐る振り返ると、彼女は驚くほど落ち着いた様子だった。怒っているわけでも、引いているわけでもない。呆れすぎて一周回った感じ?「おいで」 両腕を広げながら、ふわりと微笑む。……ハグをご希望ということでいいんだろうか。許してくれるってこと? 本当に? 逃げ場のない状況で、ほかに選択肢もない。いや、そもそも彼女の腕の中に行きたい。吸い寄せられるように、フラフラと近づいて、彼女の身体を抱きしめていた。 細い肩を腕で包む。首元に顔を埋めると、せっけんの優しい香りが鼻腔いっぱいに広がった。ほんのり温かい体温。すごく落ち着く匂いだ。ああ、怒ってないんだ。よかった──。「んんっ!?」 背中に、何かが触れた。 指先だ。背中を下から上へ、ゆっくりと、すーっと這い上がってくる。その軌跡に沿って、ゾワゾワとした感覚が広がっていく。 身体がビクッと跳ねて、思わず硬直する。「いつから興味があるの?」 耳元で、囁くような声。甘く、優しく、でもどこか有無を言わせない響き。「い、いつからというか……んはっ!」 肩甲骨のあたりで、くるくると円を描くように指が動く。寝間着越しでも伝わる、柔らかな指の腹の感触。優しい刺激が、休むことなく襲ってくる。じわじわと身体の奥から笑いが込み上げてくる。「いつから?」 同じ質問を、今度は少しだけ低い声で繰り返す。「や、だから……ひひっ……!」 背骨に沿って指が上下する。くすぐったい。大笑いするほどじゃないけど、確実に効いてる。「いつからなの?」 声のトーンが、ほんの少しだけ厳しくなった。 なに!? 取り調べが始まったんだけど!? 優しくハグするんじゃなかったの!?「ひっ……べつに、興味なんて、ないっ……!」 苦し紛れの嘘。でも、認めたくない。「んー。じゃあ、きっかけは?」「あはっ!?」 両手が腰へ滑り降りていく。腸骨のあたりを、爪先で軽く、さわさわと、筆で撫でるようになぞられる。思わず腰が引けて、仰け反った。 声にならない笑いが喉の奥で震えている。大笑いするようなくすぐったさじゃない。でも、それがかえってもどかしい。耐えられるけど、耐えるのが辛い。笑っていいのか、我慢すべきなのか、身体が判断できずに混乱する。「なにがきっかけなの?」 腰の付け根を、三本の指が右に、左に、リズミカルになぞっていく。皮膚の薄い場所に直接響く刺激。背筋を駆け上がるような、頭のてっぺんまでゾクゾクする感覚。「きっかけも……くそも、ないからっ……ふははっ!」 声が裏返る。必死に堪えようとするほど、くすぐったさが増していく。「そうなの?」 問いかけは穏やかなまま。でも、指の動きは止まらない。 この尋問、いつ終わるんだ……。彼女の腕の中に捕らわれたまま、逃げることもできない。 その時、彼女がぎゅっと力強く抱きついてきた。密着する身体。距離はゼロに近く、体温が直接伝わってくる。そして──くびれに、両手がそっと添えられた。 嫌な予感がする。 次の瞬間、指先が立てられ、小刻みに、素早く、容赦なく動き始めた。「ふははっ!! ま、まって……っはは!!」 今までとは打って変わった、激しい刺激。じわじわと責められていた時とは比べものにならない。もう耐えられない。 膝から力が抜けて、全体重を彼女に預けてしまう。小柄な恋人がそれを支えられるはずもなく、バランスを崩して、そのまま床に押し倒す形になってしまった。 彼女の顔が、鼻が触れそうなほどすぐ近くにある。まん丸に見開かれた瞳が、息を切らすこちらを静かに覗き込んでいる。その目は、まるで全てを見透かしているように透き通っていて、嘘も隠し事も通用しないと告げているようだった。 彼女が、くすっと口角を上げた。「かわいい」 ぽつりと、まるで独り言のように呟く。「……かわいくない!!」 顔を背けて、反論する。声がかすれている。「かわいいよ?」 否定するように首を振る俺の頭を、彼女が優しく撫でてくる。大きな手のひらが、髪をくしゃくしゃと撫でる。 顔に熱が集中していくのが分かった。耳まで熱い。完全に子ども扱いだ。かっこつけようと、洗面台の前ではしゃいでいた俺が馬鹿みたいで。「どこが弱いの?」 好奇心旺盛なのはいいけど、ここで発揮されるのは困る。「もういいって……違うから、ほんとに!」 まだ荒い息を整えながら、必死に否定する。「本当に?」 少し意地悪そうな笑みを浮かべて、彼女が畳みかける。「ほんとに!」「そっかぁ」 納得したのだろうか、彼女がふっと目を伏せた。そのまま笑顔が消える。……ちょっと言い方きつくなったし、落ち込ませてしまったのか? 謝罪の言葉を口にしようとした、まさにその瞬間だった。 彼女の人差し指が、腕の隙間をするりと縫うように潜り込んで、腋の中心に、ぴたりと差し込まれた。「うひゃっ!?」 グリグリと、容赦なく刺激される。制御不能な、素っ頓狂な声が喉から飛び出した。「……腋、弱い?」 何事もなかったかのように、彼女が首を傾げて尋ねる。その表情には、明らかな確信があった。「い、いや!? 全然平気だけど!? 急にされたからビックリしただけ!!」 慌てて彼女の人差し指を掴んで、腋から引き離す。心臓が跳ねるように打っている。 ヤバかった……指一本、ちょんと触れられただけなのに、こんな反応してしまうなんて。ちゃんと本格的にくすぐられたら、一体どうなってしまうんだろう……。 想像しただけで、また鼓動が速くなる。「ねえねえ」「へっ!?」 突然耳元で響いた彼女の声に、びくっと反応してしまう。「ちゃんと髪、乾かしたほうがいいよ。まだ濡れてるみたい」 彼女が立ち上がり、俺の身体をそっと押しのけて、洗面台へとすたすたと向かっていく。「ドライヤーしてあげるね」 明るい声でそう言い残して、彼女は部屋を出ていった。 一人残された俺は、床に座り込んだまま、バクバクと激しく鼓動を打つ胸を手で押さえた。 誤魔化せた……のか? それとも、全部バレてて、あえて見逃してくれたのか。……もし、素直に白状していたら、続きがあったんだろうか。ちゃんと髪を乾かしていたら、もう少し、やられていたんだろうか。 脳裏に浮かぶのは、彼女の指先の感触と、あの透き通った瞳。 滾るような欲望を、なんとか落ち着かせなければ。冷静にならなければ。 俺は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。一度、二度、三度。 もうすぐ、彼女が戻ってくる。 そんなことが最近あったよな……、と遠い目で思い出しながら、俺は必死に踵をベッドに叩きつけていた。「くくっ……ふはっ!? んははっ、もうやめっ……!!」 恋人の指が、大きく開かれて逃げ場のない腋を這い回る。五本の指が代わる代わる、あるいは同時に、皮膚を撫で、弱いところを探り、神経を刺激していく。 予想よりはるかに、いや、想像を絶するほど強い刺激。のたうち回る。身体を捻る。でも逃げられない。 それなのに彼女は、ニコニコと柔らかな笑顔を浮かべたまま、責める手を緩めようとはしない。むしろ楽しそうにさえ見える。 なんでこうなった? 今日、お昼を食べたあと、次の目的地までしばらく歩いていた時のことだ。『ねえ、ちょっと休憩したい』 彼女がそう言って視線を向けた先には、ああいうことをするそういうホテルがあった。 えらく積極的だなとは思った。でも、まあ、断る理由もないし? なんなら彼女の肩を抱くぐらいにはノリノリで、一緒にフロントへ入っていった。足取りも軽く、期待に胸を膨らませて。 部屋に入ったら、彼女がベッドの上に正座して、少し恥ずかしそうに頬を染めながら言った。『膝枕、させてほしいな』 そんなの断るわけがない。ありがたく、喜んで寝転ばせてもらった。 お腹いっぱいだったこともあって、柔らかい太ももに頭を預け、優しく撫でられているうちに、だんだん意識が遠のいていった。うとうとと、まどろみの中に沈んでいく。 気づいたら──いや、気づかないうちに両腕が頭の上にあり、万歳の格好だった。 なおかつ、彼女が俺の腕にちょこんと乗っかっている。いくら軽い体重とはいえ、腕を下ろすことができない。完全に身動きが取れない状態。 そして、今に至る。 俺、野生動物だったら、真っ先に捕獲されるタイプだな。警戒心ゼロ。「あははっ、やっぱりすっごく弱いんだね」 彼女が嬉しそうに言う。その声には、確信と無邪気さが混じっていた。「ちがっ……ひひっ……! よわく、ないっ……うへへ!?」 息も絶え絶えに否定するが、説得力は皆無だ。「じゃあなんで、こんなに笑ってるの?」 指先が、腋の中心を集中的に攻める。「ひゃっははは!! だっ、だからぁっ……!」「あのとき、物足りなさそう顔してたから」 彼女がふっと笑う。その声は優しいのに、どこか意地悪で。「もっとしてほしいのかなと思ったんだけど」 言いながら、親指で腋の中心を、揉みほぐすように、ぐりぐりと押し込んでくる。ピンポイントで急所を責められる感覚。「んはっはは!! あっはっはは!! もう、やめっ……!」 声が掠れる。息が続かない。笑いすぎて、涙が滲んでくる。「おうちでこんなに大笑いしてたら、お隣さんに怒られちゃうね」 涼しい顔で、彼女がくすくすと笑う。 やっぱり──やっぱり全部、あのとき、バレてたのか……!! 全身が熱くなる。笑っているせいか? それとも、恥ずかしさで熱が集中しているのか? 自分でもよくわからない。ただ、顔が燃えるように熱い。「ねぇ、いつから興味あるの?」 あの日と同じ質問が、また繰り返される。 状況は確実に俺が不利だ。逃げ場もない。彼女は全て見抜いている。分かっている、分かってはいるけど……!!「くひひっ……きょうみ、ないからっ……ははっ!!」 それでもなけなしのプライドが、必死に否定の言葉を絞り出す。 だって、かっこ悪いところ見せたくないし……。もう十分すぎるほど見せてしまっているかもしれないけど。それに、初めて付き合う人間が、くすぐられるのが好きとか、外れ値にも程があるだろ。 恋人の艶のある髪が、頬をさらりと撫でた。シャンプーの香りがふわりと漂う。 そう、彼女は穢れのない、素朴で真面目な人なんだ。ちょっと抜けてるところもあるけど、それも可愛くて……えへへ。 とにかく、こんな変なことをさせていいわけない!! 俺が我慢すれば、きっと──。「そっかー」 彼女の手が、ふっと遠のいた。 終わった、のか? 俺の意思を尊重して? そう思ったのもつかの間だった。 彼女の手が次に掴んだのは、俺が着ているパーカーの裾口。布地を指先で挟んで、にっこりと微笑む。「ちょ、ちょちょちょ!!?」 制止の言葉が喉から出てこないうちに、あっという間に、首元までめくり上げられた。「思ったより反応薄いなーって」 彼女が首を傾げる。その表情は無邪気そのもの。「生地が厚いから、かな?」 冷たい空気が、露出した肌に触れる。 そして──彼女の冷たい指先が、何の遮るものもない素肌の腋に、そっと触れた。「こうしたらどう?」 耳元で囁くような声。「うっはは!?」 まだ、添えられただけ。触れただけ。それなのに身体が激しくよじれる。 服の上から触れられていた時とは、比較にならないほどの刺激。直接肌に伝わる指先の感触は、何倍も、何十倍も敏感に感じ取れてしまう。「我慢、できるかなぁ?」 楽しそうな声で囁きながら、人差し指が、まるで鍵盤を叩くように、軽やかに、リズミカルに、二の腕の境目から窪みまで上下に移動していく。 タンタンタンタン、と奏でるように。 そういえば、彼女、幼い頃にピアノを習ってたって言ってたな……。こんなところで技術を無駄に発揮しなくても!「ひゃっはははっ!! むりむりむりぃぃぃぃ!! ぃっひひひ!?」「それで? いつからなの?」 変わらず穏やかな声で、彼女が問いかける。 白状しないと、やめてもらえない。逃げ道はない。観念するしかなかった。「あはっ、あっははは!? んんっ、ふははは!! しょうがく……せいのときっ……ぃっひひひひ! ひゃははっ!!」 途切れ途切れに、ようやく答えを絞り出す。「小学生の時? なにがきっかけだったの?」 今度は皮膚を軽く摘んで、二本の指で小刻みに、ブルブルと揺らす。振動が神経に直接響く。 刺激に慣れないようにするためだろう、あの手この手で、次々と違う攻め方をしてくる。彼女の手は休むことを知らない。「ともだちからっ……っははは!! くくっ、はははっ、あはははは!! 罰ゲームでっ……やられてぇへへへ!?」 もう隠す意味もない。全部、吐き出してしまおう。「それで、目覚めちゃったんだね」 彼女がくすっと笑う。その声には、驚きもなく、嫌悪もなく、ただ興味だけがあった。 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!! いつものように穏やかに、何でもないことのように聞いてくれるのが、かえって羞恥心を募らせる。むしろ引いてくれた方が、まだ救われる気がする。「ねえ」 指の動きが、少しだけゆっくりになる。「私に、くすぐられたいと思ったこと、なかったの?」 その質問に、心臓が大きく跳ねた。 言いたくない、言いたくない! もう完全に詰んでいる、逃げ道なんてないって分かってはいるけども!!「くっひひひ!! それはぁ……!!」 必死に言葉を濁す。でも、もう無駄だと分かっている。「それはー?」 催促するように、彼女の声が優しく問いかける。 そして──彼女の指が、腋の窪みに深く食い込んだ。十本の指先が、一斉に、容赦なく、優しく、執拗に引っ掻いてくる。「ぶはっ!! あっははははは!! むりっ、ぃゃっははは!? だめっ、そこだめだってぇぇぇ!! うへへへへっ!?」「ここ? ここが弱いんだね」 脚を空中に蹴り上げる。背中を反らしてブリッジのような体勢になる。身体をくねらせる。どう足掻いても、どんなに抵抗しても、耐えられる刺激ではなかった。 もう、限界だった。「おもってましたァ!! いっぱい、いっぱい妄想してましたァ!! 毎晩それで昂ってましたぁああああ!!」 堰を切ったように、全てを吐き出す。「ふふ。そうなんだ」 彼女がくすくすと笑う。「かわいいね」 優しい声で、まるで子どもを褒めるように言う。 もういい。このくすぐり地獄が終わるなら、プライドなんて、とっくにズタズタになったプライドなんて、全部捨ててしまえ。 けれど、一向に彼女の指が止まる気配がない。むしろ、さらに勢いを増している。「ぜんぶっ……ひゃははは!! ぜんぶ言ったじゃん!? んひひひ!! もうっ……はははっ!! もうやめてぇぇぇ!!」 涙声で懇願する。もう何も隠してない。全部話した。なのに。「んー? 答えたらやめるなんて、言ったかな?」 小首を傾げて、彼女がにっこりと微笑む。 そんなぁ!? 笑いが収まらない。口は開きっぱなしで、だらしなくヨダレが垂れ落ちる。滲み出した汗が額を伝い、髪の毛が頬や首筋にべったりとくっつく。 こんな情けない姿、ある!? 恋人に見せていい顔じゃない!!「ウソつきさんには、罰を与えなきゃね?」 彼女が楽しそうに呟く。「……あれ? でも、ご褒美にもなっちゃうね? まぁ、いっか」 自分で言って、自分で納得している。 そして、まるでペットを愛でるように、死ぬほどくすぐったい腋を、何度も何度も、飽きることなく、執拗に撫で続ける。「ぃやっはははははっ!! わきむりぃぃぃ!! ごめんなさいぃぃいっひひひ!? ゆるして……っはははは!!」 謝罪の言葉を叫び続ける。でも、止まらない。 とんだくすぐり魔を生み出してしまった。 もう抗う手立てもなく、ただただ笑い悶え続けるしかなかった。 どれくらい時間が経ったのだろう。 ようやく彼女の手が止まった時、俺は完全に放心状態だった。「よしよし」 彼女が優しく頭を撫でてくれる。その手が、さっきまで俺を責めていた手だとは思えないほど、温かい。「……ひどい」 掠れた声で呟く。「えー、でも目がトロンとしてるよ?」 図星を突かれて、顔が熱くなる。「また、してほしい?」 耳元で囁かれて、背筋がゾクッとした。 もう勘弁のような、もっとしてほしいような……返答に詰まってしまう。彼女がくすくすと笑う声が聞こえた。 次のお泊まりが、楽しみなような、恐ろしいような。そんな気持ちを抱えながら、俺はゆっくりと目を閉じた。 👏パチパチ 2025.11.7(Fri) 恋人
くすぐりフェチと白状するまで恋人からくすぐられる
恋人が初めてお泊まりに来た。
洗面台の前で鏡に映る自分と向き合い、顎に手を当てて考え込む。髪、ある程度濡れた方がいいか?
『ちゃんと乾かさなきゃダメだよ』って、彼女が心配そうにドライヤーをかけてくれる展開……あり。ありでしかない。
タオルである程度の水気を拭い、清潔感のある白いTシャツとネイビーのスウェットに着替える。鏡で全身をチェックしながら、首筋に一吹き、お気に入りの香水をかけた。ほのかに広がる柑橘系の香り。よし、完璧だ。
俺が初めての恋人だと言っていたし、スマートに、紳士的に、優しくリードしなければ。深呼吸を一つ。気合を入れて、両手で自分の頬を軽く叩く。
さあ、準備万端だ!
廊下を歩いていると、扉の向こうから笑い声が聞こえてくる。明るい声だ。なにか面白い番組でもやってるのかな。微笑みながらドアノブに手をかける。
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、その笑い声が彼女のものではないことに気づいた。男の、甲高い、必死な笑い声が部屋中に響き渡っている。耳に馴染んだ、何度も何度も聞いた声──まさか。
嫌な予感に背筋が凍る。恐る恐る視線をテレビへ移すと、頑丈な台に四肢を拘束された男が、複数の女性たちに腋を容赦なくくすぐられていた。「やめっ、あはははっ!! むり、むりっ!!」と叫びながら、身体をくねらせて笑い転げる姿。見覚えのある画面構成。見覚えのある展開。血の気が引いていく。
ああ、知ってる。この動画、知ってる。
ベッドを背もたれに体育座りしている彼女は、無言のまま画面を凝視している。ぴくりとも動かない。スマホを膝の上に置いたまま、じっと。感情を読み取れない横顔が、かえって恐ろしかった。
まずい、まずい、まずい!!
心臓が激しく鳴り始める。
こっちに気づいた彼女が、ゆっくりと、本当にゆっくりと顔を上げた。
馬鹿にされるか? 気持ち悪がられるか? それとも何も言わずに帰ってしまうのか?
脈拍が耳の奥で響く。喉がからからに乾いた。
「……こういうの、興味あるの?」
彼女が小首を傾げる。その問いかけには、嫌悪の感情も、茶化すような雰囲気も、驚きさえもなかった。ただ純粋に、事実を確認したいという口調。それがかえって怖い。
「ち、違う違う!!」
声が裏返った。つい反射的に否定してしまう。いや、でも、「はい、そうです」とは言えないだろう。さすがに。初めてのお泊まりで。
「あのー、あれだよあれ! なんか勝手に動画再生されたの! 勝手に!」
必死に両手を振りながら弁解する。
「勝手に?」
彼女が静かに繰り返す。その澄んだ瞳がじっとこちらを見つめてくる。
「そ、そう! 笑える動画流してってAIにお願いしたらこれ再生されてさー! いやいや、俺が笑いたいんだけどー! なんてツッコんだりしてー! ははっ!!」
自分でも何を言っているのかわからない。言い訳が支離滅裂だ。
画面では今もなお、男が必死に笑い続けている。「あはは、もう、もうやめっ!!」という悲鳴じみた笑い声。
駆け足でテレビに近寄り、リモコンを探すのももどかしく、テレビのコンセントを引っこ抜いて電源を切った。部屋に突然訪れた静寂。自分の荒い息遣いだけが聞こえる。
これでなんとか誤魔化せて──るわけないだろ。
冷や汗が背中を伝う。ああ、終わった。専用のアカウント、ログアウトするの忘れてた。履歴も、おすすめ動画も、全部そのまま。そんで俺が彼女の人生からログアウトするの?
ははっ、笑えない。全然笑えない。
沈黙が部屋を支配する。時計の秒針の音さえ聞こえてきそうなほどの静けさ。
「ねぇ」
低く、穏やかな声。
肩が震える。恐る恐る振り返ると、彼女は驚くほど落ち着いた様子だった。怒っているわけでも、引いているわけでもない。呆れすぎて一周回った感じ?
「おいで」
両腕を広げながら、ふわりと微笑む。……ハグをご希望ということでいいんだろうか。許してくれるってこと? 本当に?
逃げ場のない状況で、ほかに選択肢もない。いや、そもそも彼女の腕の中に行きたい。吸い寄せられるように、フラフラと近づいて、彼女の身体を抱きしめていた。
細い肩を腕で包む。首元に顔を埋めると、せっけんの優しい香りが鼻腔いっぱいに広がった。ほんのり温かい体温。すごく落ち着く匂いだ。ああ、怒ってないんだ。よかった──。
「んんっ!?」
背中に、何かが触れた。
指先だ。背中を下から上へ、ゆっくりと、すーっと這い上がってくる。その軌跡に沿って、ゾワゾワとした感覚が広がっていく。
身体がビクッと跳ねて、思わず硬直する。
「いつから興味があるの?」
耳元で、囁くような声。甘く、優しく、でもどこか有無を言わせない響き。
「い、いつからというか……んはっ!」
肩甲骨のあたりで、くるくると円を描くように指が動く。寝間着越しでも伝わる、柔らかな指の腹の感触。優しい刺激が、休むことなく襲ってくる。じわじわと身体の奥から笑いが込み上げてくる。
「いつから?」
同じ質問を、今度は少しだけ低い声で繰り返す。
「や、だから……ひひっ……!」
背骨に沿って指が上下する。くすぐったい。大笑いするほどじゃないけど、確実に効いてる。
「いつからなの?」
声のトーンが、ほんの少しだけ厳しくなった。
なに!? 取り調べが始まったんだけど!? 優しくハグするんじゃなかったの!?
「ひっ……べつに、興味なんて、ないっ……!」
苦し紛れの嘘。でも、認めたくない。
「んー。じゃあ、きっかけは?」
「あはっ!?」
両手が腰へ滑り降りていく。腸骨のあたりを、爪先で軽く、さわさわと、筆で撫でるようになぞられる。思わず腰が引けて、仰け反った。
声にならない笑いが喉の奥で震えている。大笑いするようなくすぐったさじゃない。でも、それがかえってもどかしい。耐えられるけど、耐えるのが辛い。笑っていいのか、我慢すべきなのか、身体が判断できずに混乱する。
「なにがきっかけなの?」
腰の付け根を、三本の指が右に、左に、リズミカルになぞっていく。皮膚の薄い場所に直接響く刺激。背筋を駆け上がるような、頭のてっぺんまでゾクゾクする感覚。
「きっかけも……くそも、ないからっ……ふははっ!」
声が裏返る。必死に堪えようとするほど、くすぐったさが増していく。
「そうなの?」
問いかけは穏やかなまま。でも、指の動きは止まらない。
この尋問、いつ終わるんだ……。彼女の腕の中に捕らわれたまま、逃げることもできない。
その時、彼女がぎゅっと力強く抱きついてきた。密着する身体。距離はゼロに近く、体温が直接伝わってくる。そして──くびれに、両手がそっと添えられた。
嫌な予感がする。
次の瞬間、指先が立てられ、小刻みに、素早く、容赦なく動き始めた。
「ふははっ!! ま、まって……っはは!!」
今までとは打って変わった、激しい刺激。じわじわと責められていた時とは比べものにならない。もう耐えられない。
膝から力が抜けて、全体重を彼女に預けてしまう。小柄な恋人がそれを支えられるはずもなく、バランスを崩して、そのまま床に押し倒す形になってしまった。
彼女の顔が、鼻が触れそうなほどすぐ近くにある。まん丸に見開かれた瞳が、息を切らすこちらを静かに覗き込んでいる。その目は、まるで全てを見透かしているように透き通っていて、嘘も隠し事も通用しないと告げているようだった。
彼女が、くすっと口角を上げた。
「かわいい」
ぽつりと、まるで独り言のように呟く。
「……かわいくない!!」
顔を背けて、反論する。声がかすれている。
「かわいいよ?」
否定するように首を振る俺の頭を、彼女が優しく撫でてくる。大きな手のひらが、髪をくしゃくしゃと撫でる。
顔に熱が集中していくのが分かった。耳まで熱い。完全に子ども扱いだ。かっこつけようと、洗面台の前ではしゃいでいた俺が馬鹿みたいで。
「どこが弱いの?」
好奇心旺盛なのはいいけど、ここで発揮されるのは困る。
「もういいって……違うから、ほんとに!」
まだ荒い息を整えながら、必死に否定する。
「本当に?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべて、彼女が畳みかける。
「ほんとに!」
「そっかぁ」
納得したのだろうか、彼女がふっと目を伏せた。そのまま笑顔が消える。……ちょっと言い方きつくなったし、落ち込ませてしまったのか?
謝罪の言葉を口にしようとした、まさにその瞬間だった。
彼女の人差し指が、腕の隙間をするりと縫うように潜り込んで、腋の中心に、ぴたりと差し込まれた。
「うひゃっ!?」
グリグリと、容赦なく刺激される。制御不能な、素っ頓狂な声が喉から飛び出した。
「……腋、弱い?」
何事もなかったかのように、彼女が首を傾げて尋ねる。その表情には、明らかな確信があった。
「い、いや!? 全然平気だけど!? 急にされたからビックリしただけ!!」
慌てて彼女の人差し指を掴んで、腋から引き離す。心臓が跳ねるように打っている。
ヤバかった……指一本、ちょんと触れられただけなのに、こんな反応してしまうなんて。ちゃんと本格的にくすぐられたら、一体どうなってしまうんだろう……。
想像しただけで、また鼓動が速くなる。
「ねえねえ」
「へっ!?」
突然耳元で響いた彼女の声に、びくっと反応してしまう。
「ちゃんと髪、乾かしたほうがいいよ。まだ濡れてるみたい」
彼女が立ち上がり、俺の身体をそっと押しのけて、洗面台へとすたすたと向かっていく。
「ドライヤーしてあげるね」
明るい声でそう言い残して、彼女は部屋を出ていった。
一人残された俺は、床に座り込んだまま、バクバクと激しく鼓動を打つ胸を手で押さえた。
誤魔化せた……のか?
それとも、全部バレてて、あえて見逃してくれたのか。……もし、素直に白状していたら、続きがあったんだろうか。ちゃんと髪を乾かしていたら、もう少し、やられていたんだろうか。
脳裏に浮かぶのは、彼女の指先の感触と、あの透き通った瞳。
滾るような欲望を、なんとか落ち着かせなければ。冷静にならなければ。
俺は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。一度、二度、三度。
もうすぐ、彼女が戻ってくる。
そんなことが最近あったよな……、と遠い目で思い出しながら、俺は必死に踵をベッドに叩きつけていた。
「くくっ……ふはっ!? んははっ、もうやめっ……!!」
恋人の指が、大きく開かれて逃げ場のない腋を這い回る。五本の指が代わる代わる、あるいは同時に、皮膚を撫で、弱いところを探り、神経を刺激していく。
予想よりはるかに、いや、想像を絶するほど強い刺激。のたうち回る。身体を捻る。でも逃げられない。
それなのに彼女は、ニコニコと柔らかな笑顔を浮かべたまま、責める手を緩めようとはしない。むしろ楽しそうにさえ見える。
なんでこうなった?
今日、お昼を食べたあと、次の目的地までしばらく歩いていた時のことだ。
『ねえ、ちょっと休憩したい』
彼女がそう言って視線を向けた先には、ああいうことをするそういうホテルがあった。
えらく積極的だなとは思った。でも、まあ、断る理由もないし? なんなら彼女の肩を抱くぐらいにはノリノリで、一緒にフロントへ入っていった。足取りも軽く、期待に胸を膨らませて。
部屋に入ったら、彼女がベッドの上に正座して、少し恥ずかしそうに頬を染めながら言った。
『膝枕、させてほしいな』
そんなの断るわけがない。ありがたく、喜んで寝転ばせてもらった。
お腹いっぱいだったこともあって、柔らかい太ももに頭を預け、優しく撫でられているうちに、だんだん意識が遠のいていった。うとうとと、まどろみの中に沈んでいく。
気づいたら──いや、気づかないうちに両腕が頭の上にあり、万歳の格好だった。
なおかつ、彼女が俺の腕にちょこんと乗っかっている。いくら軽い体重とはいえ、腕を下ろすことができない。完全に身動きが取れない状態。
そして、今に至る。
俺、野生動物だったら、真っ先に捕獲されるタイプだな。警戒心ゼロ。
「あははっ、やっぱりすっごく弱いんだね」
彼女が嬉しそうに言う。その声には、確信と無邪気さが混じっていた。
「ちがっ……ひひっ……! よわく、ないっ……うへへ!?」
息も絶え絶えに否定するが、説得力は皆無だ。
「じゃあなんで、こんなに笑ってるの?」
指先が、腋の中心を集中的に攻める。
「ひゃっははは!! だっ、だからぁっ……!」
「あのとき、物足りなさそう顔してたから」
彼女がふっと笑う。その声は優しいのに、どこか意地悪で。
「もっとしてほしいのかなと思ったんだけど」
言いながら、親指で腋の中心を、揉みほぐすように、ぐりぐりと押し込んでくる。ピンポイントで急所を責められる感覚。
「んはっはは!! あっはっはは!! もう、やめっ……!」
声が掠れる。息が続かない。笑いすぎて、涙が滲んでくる。
「おうちでこんなに大笑いしてたら、お隣さんに怒られちゃうね」
涼しい顔で、彼女がくすくすと笑う。
やっぱり──やっぱり全部、あのとき、バレてたのか……!!
全身が熱くなる。笑っているせいか? それとも、恥ずかしさで熱が集中しているのか? 自分でもよくわからない。ただ、顔が燃えるように熱い。
「ねぇ、いつから興味あるの?」
あの日と同じ質問が、また繰り返される。
状況は確実に俺が不利だ。逃げ場もない。彼女は全て見抜いている。分かっている、分かってはいるけど……!!
「くひひっ……きょうみ、ないからっ……ははっ!!」
それでもなけなしのプライドが、必死に否定の言葉を絞り出す。
だって、かっこ悪いところ見せたくないし……。もう十分すぎるほど見せてしまっているかもしれないけど。それに、初めて付き合う人間が、くすぐられるのが好きとか、外れ値にも程があるだろ。
恋人の艶のある髪が、頬をさらりと撫でた。シャンプーの香りがふわりと漂う。
そう、彼女は穢れのない、素朴で真面目な人なんだ。ちょっと抜けてるところもあるけど、それも可愛くて……えへへ。
とにかく、こんな変なことをさせていいわけない!! 俺が我慢すれば、きっと──。
「そっかー」
彼女の手が、ふっと遠のいた。
終わった、のか? 俺の意思を尊重して?
そう思ったのもつかの間だった。
彼女の手が次に掴んだのは、俺が着ているパーカーの裾口。布地を指先で挟んで、にっこりと微笑む。
「ちょ、ちょちょちょ!!?」
制止の言葉が喉から出てこないうちに、あっという間に、首元までめくり上げられた。
「思ったより反応薄いなーって」
彼女が首を傾げる。その表情は無邪気そのもの。
「生地が厚いから、かな?」
冷たい空気が、露出した肌に触れる。
そして──彼女の冷たい指先が、何の遮るものもない素肌の腋に、そっと触れた。
「こうしたらどう?」
耳元で囁くような声。
「うっはは!?」
まだ、添えられただけ。触れただけ。それなのに身体が激しくよじれる。
服の上から触れられていた時とは、比較にならないほどの刺激。直接肌に伝わる指先の感触は、何倍も、何十倍も敏感に感じ取れてしまう。
「我慢、できるかなぁ?」
楽しそうな声で囁きながら、人差し指が、まるで鍵盤を叩くように、軽やかに、リズミカルに、二の腕の境目から窪みまで上下に移動していく。
タンタンタンタン、と奏でるように。
そういえば、彼女、幼い頃にピアノを習ってたって言ってたな……。こんなところで技術を無駄に発揮しなくても!
「ひゃっはははっ!! むりむりむりぃぃぃぃ!! ぃっひひひ!?」
「それで? いつからなの?」
変わらず穏やかな声で、彼女が問いかける。
白状しないと、やめてもらえない。逃げ道はない。観念するしかなかった。
「あはっ、あっははは!? んんっ、ふははは!! しょうがく……せいのときっ……ぃっひひひひ! ひゃははっ!!」
途切れ途切れに、ようやく答えを絞り出す。
「小学生の時? なにがきっかけだったの?」
今度は皮膚を軽く摘んで、二本の指で小刻みに、ブルブルと揺らす。振動が神経に直接響く。
刺激に慣れないようにするためだろう、あの手この手で、次々と違う攻め方をしてくる。彼女の手は休むことを知らない。
「ともだちからっ……っははは!! くくっ、はははっ、あはははは!! 罰ゲームでっ……やられてぇへへへ!?」
もう隠す意味もない。全部、吐き出してしまおう。
「それで、目覚めちゃったんだね」
彼女がくすっと笑う。その声には、驚きもなく、嫌悪もなく、ただ興味だけがあった。
恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!!
いつものように穏やかに、何でもないことのように聞いてくれるのが、かえって羞恥心を募らせる。むしろ引いてくれた方が、まだ救われる気がする。
「ねえ」
指の動きが、少しだけゆっくりになる。
「私に、くすぐられたいと思ったこと、なかったの?」
その質問に、心臓が大きく跳ねた。
言いたくない、言いたくない! もう完全に詰んでいる、逃げ道なんてないって分かってはいるけども!!
「くっひひひ!! それはぁ……!!」
必死に言葉を濁す。でも、もう無駄だと分かっている。
「それはー?」
催促するように、彼女の声が優しく問いかける。
そして──彼女の指が、腋の窪みに深く食い込んだ。十本の指先が、一斉に、容赦なく、優しく、執拗に引っ掻いてくる。
「ぶはっ!! あっははははは!! むりっ、ぃゃっははは!? だめっ、そこだめだってぇぇぇ!! うへへへへっ!?」
「ここ? ここが弱いんだね」
脚を空中に蹴り上げる。背中を反らしてブリッジのような体勢になる。身体をくねらせる。どう足掻いても、どんなに抵抗しても、耐えられる刺激ではなかった。
もう、限界だった。
「おもってましたァ!! いっぱい、いっぱい妄想してましたァ!! 毎晩それで昂ってましたぁああああ!!」
堰を切ったように、全てを吐き出す。
「ふふ。そうなんだ」
彼女がくすくすと笑う。
「かわいいね」
優しい声で、まるで子どもを褒めるように言う。
もういい。このくすぐり地獄が終わるなら、プライドなんて、とっくにズタズタになったプライドなんて、全部捨ててしまえ。
けれど、一向に彼女の指が止まる気配がない。むしろ、さらに勢いを増している。
「ぜんぶっ……ひゃははは!! ぜんぶ言ったじゃん!? んひひひ!! もうっ……はははっ!! もうやめてぇぇぇ!!」
涙声で懇願する。もう何も隠してない。全部話した。なのに。
「んー? 答えたらやめるなんて、言ったかな?」
小首を傾げて、彼女がにっこりと微笑む。
そんなぁ!?
笑いが収まらない。口は開きっぱなしで、だらしなくヨダレが垂れ落ちる。滲み出した汗が額を伝い、髪の毛が頬や首筋にべったりとくっつく。
こんな情けない姿、ある!? 恋人に見せていい顔じゃない!!
「ウソつきさんには、罰を与えなきゃね?」
彼女が楽しそうに呟く。
「……あれ? でも、ご褒美にもなっちゃうね? まぁ、いっか」
自分で言って、自分で納得している。
そして、まるでペットを愛でるように、死ぬほどくすぐったい腋を、何度も何度も、飽きることなく、執拗に撫で続ける。
「ぃやっはははははっ!! わきむりぃぃぃ!! ごめんなさいぃぃいっひひひ!? ゆるして……っはははは!!」
謝罪の言葉を叫び続ける。でも、止まらない。
とんだくすぐり魔を生み出してしまった。
もう抗う手立てもなく、ただただ笑い悶え続けるしかなかった。
どれくらい時間が経ったのだろう。
ようやく彼女の手が止まった時、俺は完全に放心状態だった。
「よしよし」
彼女が優しく頭を撫でてくれる。その手が、さっきまで俺を責めていた手だとは思えないほど、温かい。
「……ひどい」
掠れた声で呟く。
「えー、でも目がトロンとしてるよ?」
図星を突かれて、顔が熱くなる。
「また、してほしい?」
耳元で囁かれて、背筋がゾクッとした。
もう勘弁のような、もっとしてほしいような……返答に詰まってしまう。彼女がくすくすと笑う声が聞こえた。
次のお泊まりが、楽しみなような、恐ろしいような。そんな気持ちを抱えながら、俺はゆっくりと目を閉じた。