天羽の儀という羽根責め儀式を知っていますか? 「こんにちはー!」 満面の笑みを浮かべた若い男が手を振りながら近づいてきた。……知らない顔だ。この町に長く住んでいれば、住人のみならずペットの名前まで大体覚えるものだが、彼には見覚えがない。背筋が妙にぞわっとする。「この町の方ですかー?」「……そうですけど」「良かったー! あ、僕こういう者です」 ポケットから名刺を取り出して差し出す。肩書きはフリーライター。わあ、胡散臭い。「この町に『あもうの儀』っていう伝統行事があるって聞いてきたんですよ!」 ああ、またか。「……あまはの儀のことですね」「ご存じなんですね!」 しまった。うっかり訂正してしまったせいで、儀式を知ってる人間だと証明してしまった。「詳しく教えてください! もちろんお礼はしますので!」 正直関わりたくない。けれど、この町はお年寄りの比率が高い。このライターが悪人か善人かも分からない状態で、野放しにしたくないのも事実だった。「……この近くにカフェがあります。そちらで話しましょう」 彼の待つテーブルに、湯気の立つコーヒーカップを置いた。「どうぞ」「ありがとうございます。このお店、いつからやってるんですか?」「数ヶ月前ですね。町おこしの一環で」「へぇ! 近所にこんな店あったら、毎日通うのになぁ」 お世辞を口にしながら、彼はすぐに身を乗り出す。「それで……、天羽の儀についてなんですが」 天羽の儀。それはこの町に古くから伝わる行事だ。干ばつに苦しんでいた時代、村人が天に祈ると一羽の白い鳥が舞い降り、羽ばたくたびに子どもたちが笑い出したという。ほどなく雨が降り、作物が実った──それが始まりだ。以来『笑いは雨を呼び、笑い声は雷鳴に届く』とされ、今も初夏になると儀式は欠かさず続けられている。「僕も参加させてもらえないでしょうか?」「……神聖な儀に、好奇心だけで他人が入られても困るんですよ」「皆さんにご迷惑をかけるつもりはありません」 よそ者が土足で入ってくることを、迷惑だとは思っていないようだ。「それに、この町も過疎化が進んでますよね? 摩訶不思議な儀式がある町、バズるとは思いませんか?」 何を言っても引く気はなさそうだった。私はわざとらしくため息をつき、決心したように口を開く。「……分かりました。ではここで実践してみましょう」「実践?」「リハーサルです。あなたを参加させてもいいか、こちらで判断します」「ぜひ!」 彼の目が、子どものように輝いた。 けれど、それもつかの間。今は乱層雲のごとく、どんより濁っている。 それもそうだろう。彼はカフェの木椅子に両腕両足をしっかりと縛り付けられ、身動きひとつ取れない。指示通りシャツを脱ぎ、残されたのはライトグレーのノースリーブだけ。心細げな肩が露わになり、袖口は汗でじっとりと濡れていた。暑さのせいか、それとも先行きの不安のせいか──判断は難しい。「あ、あの、これは……」「儀式の準備ですけど」「縛る必要はあるんでしょうか……?」「やめても構いませんよ? 私も忙しいので」「い、いえ、続けてください!」 彼の声は上ずっていた。 私はゆっくりと白い羽根を持ち上げる。光を受けて細い繊維が震えた。彼には、これが凶器のように見えるのだろうか。「始めますね」 羽先を耳の穴にそっと差し込む。「んぁ……!?」 反射的に顔を傾け、耳を庇おうとしているようだ。だがその抵抗は意味をなさない。「えっ!? ちょっと……んふふっ!!」 羽根を顎下に這わせる。ひと撫でで首がぎゅっとすぼみ、笑い声を漏らす。「ま、まって!!」 彼の慌てふためいた声に、私は手を止めた。「ちょ、ちょっと……何してるんですか!?」 目を見開き、縄をきしませながら身をよじる。「何って、天羽の儀ですよ」「これが!? 冗談でしょう!?」「いえ。白い羽根で、選ばれた者の身体をなぞるんです。『笑いは雨を呼び、笑い声は雷鳴に届く』んですよ」 彼の顔に、信じられないといった色が濃く浮かぶ。口を半開きにしたまま言葉を失い、じっと私を見返していた。「やめてもいいですよ? どうせ、お遊び程度の気持ちで来られたんでしょう?」 からかうように告げると、今まで柔和だった顔が一瞬だけ歪んだ。目尻がぴくりと跳ね、眉がわずかに寄る。「……いえ。続けてください」 声のトーンが低くなり、小さな苛立ちが透けて見えた。ライターとしての意地があるのだろう。「本当の儀式は途中で止めたりしませんよ。それでもいいですね?」「構いません」 短く吐き捨てるように答えた瞬間、縄に縛られた拳が小さく震えた。 横腹を羽根ですっ──と細くなぞる。「っぐ……っふ、ふふっ……っく……っふ、ふはっ……!」 彼は歯を食いしばり、唇をきつく結んで笑いを押し殺している。だが頬の筋肉が小刻みに震え、押さえつけた腕の縄がぎしぎし鳴った。私はその必死さをあざ笑いながら、羽根を上へ下へと何度も往復させる。「っ……んふ……ふふっ……っく……はっ……ふっ、くっ……ふふふ……っ……!」 笑いが喉の奥で詰まって、途切れ途切れに漏れる。歯の隙間から押し出される呼気すら震えていた。 不思議なもので、我慢されると笑わせてやりたいという気持ちが湧き上がってくる。「失礼しますね」 肌着の裾をそっと摘む。彼の瞳が大きく揺れ、肩がびくりと跳ねた。臍の窪みが無防備にさらされる。そこへ羽根の先を落とす。「ひゃっ!?」 つんつんと突く度、声が裏返り、腹筋が瞬間的に収縮する。「あっ……ふ、ふふっ……っはっ……っだっ、ひゃははっ! っく、ふふっ……!」 頭を項垂れさせ、髪を振り乱しながら左右に揺らす。私は臍のごまを掻き取るように、くすぐるとも撫でるともつかぬ動きに変えてみる。「っあはっ……ふ、ふふははっ! くくっ、やめ……あっははっ!」 腰が椅子の上で跳ね、縄が食い込んだ。横腹よりも反応が鋭いのは、素肌を直接つつかれているせいだろう。 羽先を離すと、彼は力が抜けたように椅子にもたれかかり、必死に肩で呼吸を繰り返した。 次に狙う場所は一つ。袖口から覗く腋の下だ。体毛は薄く、羽根を邪魔するものもない。右腋を羽根でゆっくりなぞり上げる。「ひゃっ、あっははっ!!! そこはぁっ!?」 全身がびくりと跳ね、縛られた手足が同時に震える。「そこは?」「くすぐったいぃぃっひひひ!!! わきはやめっ!!! ひゃっははっははは!!!」「……ダメですよ、弱いところ教えたら」 皺に沿って羽根を這わせると、彼は堪えきれず声を張り上げた。「ぶっははははっ!! あっ、ははははっ!! くっ、くるしっ……いゃやっははははっ!!」「笑い声を出してもらうために、重点的にくすぐられちゃいますから」 つんつんと羽先で突く。二の腕の付け根から腋の窪みに向かっていくと、そのたびに小さな痙攣が走った。「っ……んっ、ふ……っふふっ……やめっ、……っくひぃっ……!?」 彼は背を反らす。肩ごと椅子に打ちつけられ、縄がぎしりと鳴った。ああ、見つけた。「もっと笑い声が出せるよう、お手伝いしますね」 窪みの中心、最も柔らかく敏感な彼の弱点。羽先をそこへ潜り込ませ、搔き混ぜるように動かす。「ひゃはははははっ!? うっははっ! もっ、そこはっ……くっ、はははっ!! あっははははははっ!!」 肩が跳ね、顎が突き上がる。大きく開かれた口から涎が垂れていく。 羽根は一つしかないため、左腋は手つかずだ。せっかくなので、人差し指と中指を揃え、窪みをなぞるように差し入れる。「ぶっ、っははははは!!? うひゃっはははは!!! むりむりむりぃぃぃ!!! しぬっ……しぬぅぅぅうっへへっへへへっ!!!」 全身をのけ反らせ、縄に食い込む腕が小刻みに震える。椅子の脚が床を軋ませ、暴れるたびに音が跳ねた。「いぃやっははっはははは!? あぁぁはっっははははっ!!! ひぃっ!! ごめっ、……ごめんなさいっひひひひひ!!!!」「謝る必要はありませんよ」 涙で濡れた瞳が、必死に助けを乞うように私を見上げる。「もっ、うっはははははっ!! あっははっ……ゆるしっ、ふっ……ひゃははははは! ゆるしてぇええええっ、ふはははははっ!!」 笑い声の波が最高潮に達し、息継ぎすら途切れ途切れになる。顔は真っ赤に染まり、汗が首筋を伝って滴った。 まだ遊んでもいいのだけど──そう思った指先を、理性で制した。「……はい、お疲れ様でした」 彼はぐったりと項垂れ、肩で荒い呼吸を繰り返していた。インナーはしっとりと肌に張り付き、力が込められていた指先には震えが残っていた。「これを一時間ぐらい、町の人たちが交代で行うんですよ」 何気ない口調で告げると、彼の顔に影が落ちた。血の気が引き、絶望そのものの表情を浮かべる。「……へ、へぇ……」「とてもいい笑い声でしたよ。住人の方々も歓迎するはずです。ぜひ、ご参加を……」「い、いえっ!! もう、もう十分体験しましたのでっ!! よそ者が入るなんて、烏滸がましい限りです!!」 先ほどまでの好奇心旺盛な顔が嘘のように青ざめ、必死に首を振る。その姿に、こちらは吹き出しそうになるのを堪える。「そうですか、残念です」 口角をわずかに吊り上げた。 拘束を解くと、彼は代金を机に置き、縄痕を赤く残したまま、ふらつく足取りで店を去る。ここであったことを全て忘れたいかのように、一切振り返ることはなかった。 私は残された羽根を指で弄びながら、ひとりごちる。「……生身の人間を使う儀式なんて、とうの昔に廃止されているのだけど」 そう打ち明けるタイミングを、私はつい逃してしまった。 👏パチパチ 2025.9.12(Fri) 単発
天羽の儀という羽根責め儀式を知っていますか?
「こんにちはー!」
満面の笑みを浮かべた若い男が手を振りながら近づいてきた。……知らない顔だ。この町に長く住んでいれば、住人のみならずペットの名前まで大体覚えるものだが、彼には見覚えがない。背筋が妙にぞわっとする。
「この町の方ですかー?」
「……そうですけど」
「良かったー! あ、僕こういう者です」
ポケットから名刺を取り出して差し出す。肩書きはフリーライター。わあ、胡散臭い。
「この町に『あもうの儀』っていう伝統行事があるって聞いてきたんですよ!」
ああ、またか。
「……あまはの儀のことですね」
「ご存じなんですね!」
しまった。うっかり訂正してしまったせいで、儀式を知ってる人間だと証明してしまった。
「詳しく教えてください! もちろんお礼はしますので!」
正直関わりたくない。けれど、この町はお年寄りの比率が高い。このライターが悪人か善人かも分からない状態で、野放しにしたくないのも事実だった。
「……この近くにカフェがあります。そちらで話しましょう」
彼の待つテーブルに、湯気の立つコーヒーカップを置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。このお店、いつからやってるんですか?」
「数ヶ月前ですね。町おこしの一環で」
「へぇ! 近所にこんな店あったら、毎日通うのになぁ」
お世辞を口にしながら、彼はすぐに身を乗り出す。
「それで……、天羽の儀についてなんですが」
天羽の儀。それはこの町に古くから伝わる行事だ。干ばつに苦しんでいた時代、村人が天に祈ると一羽の白い鳥が舞い降り、羽ばたくたびに子どもたちが笑い出したという。ほどなく雨が降り、作物が実った──それが始まりだ。以来『笑いは雨を呼び、笑い声は雷鳴に届く』とされ、今も初夏になると儀式は欠かさず続けられている。
「僕も参加させてもらえないでしょうか?」
「……神聖な儀に、好奇心だけで他人が入られても困るんですよ」
「皆さんにご迷惑をかけるつもりはありません」
よそ者が土足で入ってくることを、迷惑だとは思っていないようだ。
「それに、この町も過疎化が進んでますよね? 摩訶不思議な儀式がある町、バズるとは思いませんか?」
何を言っても引く気はなさそうだった。私はわざとらしくため息をつき、決心したように口を開く。
「……分かりました。ではここで実践してみましょう」
「実践?」
「リハーサルです。あなたを参加させてもいいか、こちらで判断します」
「ぜひ!」
彼の目が、子どものように輝いた。
けれど、それもつかの間。今は乱層雲のごとく、どんより濁っている。
それもそうだろう。彼はカフェの木椅子に両腕両足をしっかりと縛り付けられ、身動きひとつ取れない。指示通りシャツを脱ぎ、残されたのはライトグレーのノースリーブだけ。心細げな肩が露わになり、袖口は汗でじっとりと濡れていた。暑さのせいか、それとも先行きの不安のせいか──判断は難しい。
「あ、あの、これは……」
「儀式の準備ですけど」
「縛る必要はあるんでしょうか……?」
「やめても構いませんよ? 私も忙しいので」
「い、いえ、続けてください!」
彼の声は上ずっていた。
私はゆっくりと白い羽根を持ち上げる。光を受けて細い繊維が震えた。彼には、これが凶器のように見えるのだろうか。
「始めますね」
羽先を耳の穴にそっと差し込む。
「んぁ……!?」
反射的に顔を傾け、耳を庇おうとしているようだ。だがその抵抗は意味をなさない。
「えっ!? ちょっと……んふふっ!!」
羽根を顎下に這わせる。ひと撫でで首がぎゅっとすぼみ、笑い声を漏らす。
「ま、まって!!」
彼の慌てふためいた声に、私は手を止めた。
「ちょ、ちょっと……何してるんですか!?」
目を見開き、縄をきしませながら身をよじる。
「何って、天羽の儀ですよ」
「これが!? 冗談でしょう!?」
「いえ。白い羽根で、選ばれた者の身体をなぞるんです。『笑いは雨を呼び、笑い声は雷鳴に届く』んですよ」
彼の顔に、信じられないといった色が濃く浮かぶ。口を半開きにしたまま言葉を失い、じっと私を見返していた。
「やめてもいいですよ? どうせ、お遊び程度の気持ちで来られたんでしょう?」
からかうように告げると、今まで柔和だった顔が一瞬だけ歪んだ。目尻がぴくりと跳ね、眉がわずかに寄る。
「……いえ。続けてください」
声のトーンが低くなり、小さな苛立ちが透けて見えた。ライターとしての意地があるのだろう。
「本当の儀式は途中で止めたりしませんよ。それでもいいですね?」
「構いません」
短く吐き捨てるように答えた瞬間、縄に縛られた拳が小さく震えた。
横腹を羽根ですっ──と細くなぞる。
「っぐ……っふ、ふふっ……っく……っふ、ふはっ……!」
彼は歯を食いしばり、唇をきつく結んで笑いを押し殺している。だが頬の筋肉が小刻みに震え、押さえつけた腕の縄がぎしぎし鳴った。私はその必死さをあざ笑いながら、羽根を上へ下へと何度も往復させる。
「っ……んふ……ふふっ……っく……はっ……ふっ、くっ……ふふふ……っ……!」
笑いが喉の奥で詰まって、途切れ途切れに漏れる。歯の隙間から押し出される呼気すら震えていた。
不思議なもので、我慢されると笑わせてやりたいという気持ちが湧き上がってくる。
「失礼しますね」
肌着の裾をそっと摘む。彼の瞳が大きく揺れ、肩がびくりと跳ねた。臍の窪みが無防備にさらされる。そこへ羽根の先を落とす。
「ひゃっ!?」
つんつんと突く度、声が裏返り、腹筋が瞬間的に収縮する。
「あっ……ふ、ふふっ……っはっ……っだっ、ひゃははっ! っく、ふふっ……!」
頭を項垂れさせ、髪を振り乱しながら左右に揺らす。私は臍のごまを掻き取るように、くすぐるとも撫でるともつかぬ動きに変えてみる。
「っあはっ……ふ、ふふははっ! くくっ、やめ……あっははっ!」
腰が椅子の上で跳ね、縄が食い込んだ。横腹よりも反応が鋭いのは、素肌を直接つつかれているせいだろう。
羽先を離すと、彼は力が抜けたように椅子にもたれかかり、必死に肩で呼吸を繰り返した。
次に狙う場所は一つ。袖口から覗く腋の下だ。体毛は薄く、羽根を邪魔するものもない。右腋を羽根でゆっくりなぞり上げる。
「ひゃっ、あっははっ!!! そこはぁっ!?」
全身がびくりと跳ね、縛られた手足が同時に震える。
「そこは?」
「くすぐったいぃぃっひひひ!!! わきはやめっ!!! ひゃっははっははは!!!」
「……ダメですよ、弱いところ教えたら」
皺に沿って羽根を這わせると、彼は堪えきれず声を張り上げた。
「ぶっははははっ!! あっ、ははははっ!! くっ、くるしっ……いゃやっははははっ!!」
「笑い声を出してもらうために、重点的にくすぐられちゃいますから」
つんつんと羽先で突く。二の腕の付け根から腋の窪みに向かっていくと、そのたびに小さな痙攣が走った。
「っ……んっ、ふ……っふふっ……やめっ、……っくひぃっ……!?」
彼は背を反らす。肩ごと椅子に打ちつけられ、縄がぎしりと鳴った。ああ、見つけた。
「もっと笑い声が出せるよう、お手伝いしますね」
窪みの中心、最も柔らかく敏感な彼の弱点。羽先をそこへ潜り込ませ、搔き混ぜるように動かす。
「ひゃはははははっ!? うっははっ! もっ、そこはっ……くっ、はははっ!! あっははははははっ!!」
肩が跳ね、顎が突き上がる。大きく開かれた口から涎が垂れていく。
羽根は一つしかないため、左腋は手つかずだ。せっかくなので、人差し指と中指を揃え、窪みをなぞるように差し入れる。
「ぶっ、っははははは!!? うひゃっはははは!!! むりむりむりぃぃぃ!!! しぬっ……しぬぅぅぅうっへへっへへへっ!!!」
全身をのけ反らせ、縄に食い込む腕が小刻みに震える。椅子の脚が床を軋ませ、暴れるたびに音が跳ねた。
「いぃやっははっはははは!? あぁぁはっっははははっ!!! ひぃっ!! ごめっ、……ごめんなさいっひひひひひ!!!!」
「謝る必要はありませんよ」
涙で濡れた瞳が、必死に助けを乞うように私を見上げる。
「もっ、うっはははははっ!! あっははっ……ゆるしっ、ふっ……ひゃははははは! ゆるしてぇええええっ、ふはははははっ!!」
笑い声の波が最高潮に達し、息継ぎすら途切れ途切れになる。顔は真っ赤に染まり、汗が首筋を伝って滴った。
まだ遊んでもいいのだけど──そう思った指先を、理性で制した。
「……はい、お疲れ様でした」
彼はぐったりと項垂れ、肩で荒い呼吸を繰り返していた。インナーはしっとりと肌に張り付き、力が込められていた指先には震えが残っていた。
「これを一時間ぐらい、町の人たちが交代で行うんですよ」
何気ない口調で告げると、彼の顔に影が落ちた。血の気が引き、絶望そのものの表情を浮かべる。
「……へ、へぇ……」
「とてもいい笑い声でしたよ。住人の方々も歓迎するはずです。ぜひ、ご参加を……」
「い、いえっ!! もう、もう十分体験しましたのでっ!! よそ者が入るなんて、烏滸がましい限りです!!」
先ほどまでの好奇心旺盛な顔が嘘のように青ざめ、必死に首を振る。その姿に、こちらは吹き出しそうになるのを堪える。
「そうですか、残念です」
口角をわずかに吊り上げた。
拘束を解くと、彼は代金を机に置き、縄痕を赤く残したまま、ふらつく足取りで店を去る。ここであったことを全て忘れたいかのように、一切振り返ることはなかった。
私は残された羽根を指で弄びながら、ひとりごちる。
「……生身の人間を使う儀式なんて、とうの昔に廃止されているのだけど」
そう打ち明けるタイミングを、私はつい逃してしまった。