小説一覧

Mainです  

耳かきで腋をくすぐる話


 ベッドの上、大の字に拘束された彼のお腹にまたがる。
「シャツ、脱がしてもいい?」
 問いかけると、彼がわずかに息を呑むのが聞こえた。
「これを使いたいなと思って」
 まだ提案するには早かったかもという焦燥感から、つい早口になる。ポーチから耳かきを取り出し、指先で軽く回して見せる。
「もちろん無理強いするつもりはないけど」
「……いいよ」
 目を伏せながら、彼は続けた。
「この前、拘束するやつ壊しちゃったから……」
 彼とは掲示板で出会い、何度かプレイをしてきた。前回、初めて拘束を試したとき、マジックテープのベルトを思い切り引きちぎったのだ。こちらとしては笑い話のつもりでいたけれど、彼はまだ気にしているらしい。
 そんなところも、らしいと思う。意外と真面目で、優しい。だからこそ信頼が置けるのだ。
「それに、指よりはマシそうだし」
 耳かきを凝視しながら、彼は呟いた。了承を得たので、ゆっくりとシャツのボタンを一つずつ外す。緊張しているのだろうか、布越しに伝わる体温が高い気がした。すべて外し終えて左右に広げると、黒いインナーが晒される。それがタンクトップであるという一点だけで、こちらの目的は達成された。
 袖口から覗く腋の下。男性なので当然腋毛があるものと思っていたが、つるりとした肌が光を受けて滑らかに見えた。
「ほら、オレ童顔じゃん? 無駄毛があると微妙かなぁーって……」
 視線を向けたまま黙っていたせいか、彼のほうから説明を添えてきた。
「うん。清潔でいいと思う」
 肘から二の腕と腋の境目まで耳かきの先端を滑らせる。くすぐったさを煽るように、二の腕を通ってまた腋の頂点へ。腋へ近づくたびに彼の口元がかすかに緩み、熱を帯びた吐息が漏れた。
 境目で動きを止め、耳かきの先で小さく円を描く。
「んんんぅ!!!」
 肩がびくりと震え、その反動が私の手首にも伝わった。
「ぁぁはっ!? くぅ……っ!! 思ったより、やばっ……!!」
 声の端がひきつり、身体に力が入ったのが分かる。
 後悔したってもう遅い。耳かきの先端を、腋のてっぺんから胸の付け根あたりまで、ゆっくりと往復させた。
 何度目かの往復を終えて、気づいたことがある。窪みから先端が遠のくと、彼の肩の力がわずかに抜ける。特に弱い部分は、おそらく──。
「一番弱いところって、ここ?」
 あえて耳かきを二の腕と腋の境目に滑らせる。カリカリと軽く引っかくと、笑い声の合間に小さく頷きが返ってくる。ふーん、と心の中で呟く。
 再び胸の付け根へと下ろしていく──ただし、その手前、腋の窪みに到達したところで止める。柔らかな皮膚を、耳かきの先でゆっくり押し、ぐにぐにと刺激する。皮膚の下の筋肉が、笑いとともに絶えず細かく震えている。
「ぶっ、ふふふっ!!? ふはははっ!! うっひひひひひ!!!」
 声量が一段と大きくなる。
 遠のく気配がないことに焦ったのか、彼の抵抗が激しくなった。上半身を起こそうとしたり、腕を締めようとしてみたり。拘束具のバックルがカチリと音を立てるだけで、一瞬たりとも窪みから耳かきが離れることはない。
「ぐぅっははははっははは!!!! ひぃぃいっひひひひ!!! あぁぁああっははは!!! すとっぷっすとっぷっ!!!」
 しつこい一点責めに彼の我慢も限界が来たようだ。身体が弓なりに反り、全身が震えながら笑いに飲み込まれていく。目尻からは涙がこぼれ落ちる。
「さっきのところよりは平気でしょ?」
 問いかける声が、自分でも分かるほど意地の悪い響きを帯びていた。
 窪みの二ミリほど、ほんの少しだけ下。そこが彼のウィークポイントらしい。耳かきの先で、決して痛みを与えないよう小刻みにほじる。
 彼の腹筋が波打つように上下し、自分の太ももがかすかに押し返される。
「ぎゃっははっはっははは!!! ごめんなさいぃぃっ!!! ゆるしてっ、おねがいぃ!!!!」
 肩が跳ね、踵がベッドを蹴る。謝る必要も、許しを請う必要もないのに。
「本当はここが一番弱いんだよね?」
 わざと動きを止める。潤んだ瞳がこちらを不安げに覗く。
「よわいです……っふふ!! ふっはははは!!」
 片手で彼の右肘を掴む。完全に動かせなくなったところで、再び窪んだところをカリカリしてあげる。
「ふははははははっ!!! ひゃっ……ひひひっ、あっはははははっ!? それやだっ、ぁ……ひゃひゃはははははっ、あはははっ、ひぃっ、あはははははっ!!!」
 この刺激から逃れようとしてか、金色の髪が引っ切りなしに左右に舞い、汗が頬を伝って飛び散る。
「嘘ついたらダメでしょ?」
「いやっはははは!!! ごめんっ、ごめんなさいっひひひひ!!? だっははははっ……あっ、はっははははっ!!!」
 両腋を責められたら、どんな反応をするのだろう。その答えが知りたくて、私は左手でこっそり隠していたもう一つの耳かきを取り出した。木製の先端が、彼の腋の窪みの中心から少し下へと、迷いなく滑り込む。
「ぶはっ!? ふっははははっ!! ひっ、ひゃっ……あははははっ!!? やっ、あっはははっ、ははははっ……ひぃっ、あぁっははははっ!!!」
 腰が跳ね上がる。今、彼は笑い声を発する以外何もできないだろう。腋の奥で耳かきがわずかに上下するたび、声が裏返る。汗が腋の縁に滲み、耳かきの柄まで湿った感触が伝わってくるようだ。
「あっひゃひゃっ!! あはははははははっ! やめっ……ひゃああはははははっ! ふひひひっ……あっははははっ、ひぃっ、むりむりむりぃぃっ……あははははははっ!」
 少し、意地悪したくなった。いや、とても敏感な箇所をここまで執拗にくすぐっている時点で、十分すぎるほど意地悪なのだけれど。
「やめてほしい?」
 問いかけると、彼は涙を滲ませながら全力で首を縦に振った。金色の髪が頬に当たり、汗でしっとりと貼りつく。
「じゃあ、くすぐり奴隷になってくれる?」
 ふと、昔何度も読み返した小説の一場面が頭をよぎり、口にしてみたくなった。
「なってくれるならやめてあげる。なってくれないなら、仕方ないね。あと三分ぐらい、ここをくすぐらせてもらおうかな」
 耳かきの先をわずかに押し込み、動きを止めずに告げる。
「あひゃはははははっ!? ひっ……あはははははっ!! あっ、ひゃあああははははっ、あっはははははははっ!」
「なってくれる?」
 もう抵抗の余地もないように、彼は必死で頷いた。一つ夢を叶えた私は満足して、手を止めた。
「へへ、……っぇへへ……」
 耳かきを離しても、笑いの余韻がこぼれ落ちている。
 肩は上下し、息はまだ不規則。指先まで力が抜けきって、ベッドに全体重を預けているようだ。
「は、はげしすぎっ……し、しぬかと……おもった……」
「殺さないよ」
 くすりと笑いが溢れる。
 しばし天井を見上げていた彼が、ぼそりと呟く。
「…………オレ、なっちゃった……?」
「ん?」
「くすぐり奴隷……」
「え? あぁ、冗談だよ。言ってみたかっただけ」
「じょーだん、か…………」
「なりたかった?」
 目の前でわきわきと指を動かすと、「じょーだんのままで!!」と、慌てて体をひねらせる。その姿に思わず吹き出してしまった私は、拘束具を外すため手を伸ばした。
👏パチパチ

単発