幼馴染の推しのアクスタを壊しました 「身体歪んでそう」 幼馴染がポツリとつぶやく。スマホから顔を上げると、真正面から目が合った。いつもは遊びに来たって勉強に夢中なのに、今日は違う。なんだか、珍しくオレを観察してる。「そう? オレ、姿勢いい方だと思うけど?」 なんなら今オレより猫背で教科書読んでるくせに。さては自覚ないな?「確認する方法あるんだけど……ちょっと寝て」 幼馴染はベッドを指さした。 年頃の男をそう簡単に自分の寝床にあげるなんて──と思いつつも、軽い好奇心に負けて仰向けに寝転ぶ。敷布団の柔らかさが背中を包み、微かに柔軟剤と彼女の香りが混ざった空気が鼻をくすぐる。「逆」「先に言ってよー」 ゴロンとうつ伏せになる。頬に当たるシーツが少しひんやりして、背中には視線の気配。「ちょっと乗るよ」 言葉のあと、布の擦れる音とともに体重が乗っかった。胸の付け根あたりに膝が当たり、体温がじかに伝わってくる。 大した重さでもなかったけど、心臓がうるさいことに気づかれたくなくて、ぐぇーと声を出してみる。「いてっ」 軽く叩かれた背中のあたりが、じんわりと温かい。そのまま幼馴染の手が動く気配がして、けれどすぐ止まった。「ところで」 彼女の声が低くなり、空気がわずかに張りつめる。「アクスタ壊したね?」「……あれー? 身体歪んでるかの確認じゃなかったー?」 ケラケラと乾いた笑いを混ぜてみたけど、反応は返ってこない。 うわ、マジ気づくの早くない? 一時間かけてセロハンテープ貼ったのに。 バカでかいため息が聞こえた。熱っぽい息が背中に少し当たって、ちょっとだけ罪悪感が疼く。「その、壊そうと思ったわけじゃないよ? ちょっと触ったらさ」 言い訳が空気に溶けて消える。視線を逸らすと、カーテンの隙間から午後の日差しが斜めに差し込み、白いレースの影が壁に揺れていた。 幼馴染には、小学生のころから応援しているアイドルの推しがいる。テレビ番組は全部チェックして、配信で聴けるのにCDを買って、握手会のために始発で出かけたこともあった。 オレはそれをずっと、あきれながらも横で見てきた。理解はできない。でも、真剣さは分かっていた。「誕生日ケーキとアクスタでお祝いするつもりだったのに……」 あんな、ちょっと触っただけで折れるような板に描かれた推しと、推しが描かれたケーキを一緒に並べる。それが、彼女にとって最大の祝福らしい。でも、そんなのより誰かと食べながら、おめでとーって笑い合ったほうがよくない?「オレが一緒に食べてあげるから! あいつのお面でも付けようか?」「そういうことじゃない」 きっと今、彼女は眉間にわずかなしわを寄せて、唇を噛んでる。他の人が見たら無表情にしか見えないだろう。でも、オレには分かる。ブチギレているって。「ほんとごめーん、新しいの買うから許して?」「あれ限定版だから」 なるほどね。ピンチじゃん。 フリマアプリで探せばあるか……? いや、転売で買ったら、嫌がりそうだな……。「まあ、過ぎたことを言ってもしょうがないよね」 幼馴染が背中をなぞってくる。いきなりの刺激に、身体がビクッと反応する。 あれ? これ許されるパターン?「反省してる?」「めっちゃ反省してます!!」「じゃあ、『ごめんなさい』って言ってくれたら許すよ」──笑わずにね。その一言が聞こえた瞬間、背筋がゾワッとした。「うっはは!!」 理解する間もなく、口から笑いが溢れ出す。「ちょ、待って!? あっはははっ!! たんまっ、たんまぁ!!」 何が起きたのか分かったのは、彼女の手が両腋に差し込まれてから数秒後だった。 冷たい指先が、シャツ越しに肌を探るように動く。息が詰まって、笑い声が勝手に跳ねる。「ごめんっ、ほんとに、……ぁあっははははっ!!! おねが、ぃっひひ!? やめてぇえええ!!!」「ちゃんと謝って?」 耳元で低く囁かれる。その吐息にさえ耐えれず、顔を背けてしまう。 必死に腋を締めようとするけれど、幼馴染の膝がちょうど邪魔な位置にあって、完全には閉じられない。 その隙間に、指先が容赦なく入り込んでくる。布と肌が擦れるたび、電流のような刺激が走った。「むりぃぃ!! うひゃ!? そんなのっ……くっはははは!! あっ、やめ、っはははははっ! まじ、むりっ……あははっ!!」 尋常じゃないほど、くすぐったいんだけど!? オレ、こんなにこちょこちょ弱かった!?「じゃあ、許せない」 一瞬、指が離れた──と思った瞬間。 人差し指と中指が、腋の窪みのど真ん中に突き刺さる。「ぶっははは!! そこやばっ!! ひゃっははははっ!!」 全身が勝手に跳ね上がる。背筋が弓なりに反り、ベッドのスプリングがギシッと悲鳴を上げた。「ここ弱いんだ」 まずい!!「ち、ちがっ、うぇへへ!? よわくっ、なぁっははは!! ぐっふふふ!!」「ふーん」 口を押さえたって出た言葉は取り消せない。 指先はひっついたみたいに離れず、腋の窪みを弄んでくる。触られたくない箇所を、正確に、容赦なく。──ねちっこい幼馴染の性格が滲み出た攻撃だ。「ぎゃっはははっ!! だめだめだめっ、んひひひひ!! おねがいっ、ひゃっはははは!!」 両手で拳を作って、ベッドに叩きつける。 パシッ、パシッと乾いた音。少しでもくすぐったさが逃げてくれたらと願うけど、無駄だった。「んひゃはははっ!! ふっ、ふっははははは!! うへへ!? くるしっ……ぁあはははっ!!」 息が詰まり、視界が滲む。口の端からよだれが垂れ、それを拭う余裕もない。笑いと苦しさがごちゃまぜになって、世界が揺れているみたいだった。「しょうがない」 ようやく指が弱点から遠のいた。咳き込みつつ呼吸を整える。 休憩もつかの間、腋と二の腕の境目あたりを親指でぐっと押し込まれた。「ふふっ!!」「これならいいでしょ?」 そりゃ、さっきよりはマシだけど……! 押されるたびに筋肉がピクッと跳ねて、笑いが漏れるのを必死でこらえる。でも、謝らない限りこのこちょこちょ地獄は終わらないんだろう。「んっ……! ふっ、ごめっ、うひぃ!? ごめんなさいっ……!!」 言った!! 言えた!!「何が?」「うへぇ!?」「何がごめんなさいなの?」 今日、意地悪すぎない!?「ふふっ……あっ、アクスタ、くふふっ、こわしちゃって……」「笑ってない?」「わらってないぃ……! くひひっ!!」「笑ってるじゃん」 グリグリと押し込む形から、なぞるような動きに変わる。せっかく刺激に慣れ始めていたのに、また最初からだ。「やっ、ふふっ、もう……はははっ」 指先が一ミリでも動くたび、鳥肌が腕を駆け上がっていった。「ほんとにっ、ごめんなさいぃぃ……!!」 その声を合図にしたみたいに、指が離れた。 身体がどさりとベッドに沈み込む。自分でも気づかないうちに、上半身を浮かせてたらしい。シーツの冷たさが頬から伝わってきて、呼吸が整っていく。「大丈夫?」 幼馴染の声が、さっきよりずっと柔らかい。いつのまにか背中から降りていて、横から心配そうにこちらを覗き込んでいる。 誰のせいでこうなったと思ってるんだか。だけど、頭を撫でる手のひらが心地よくて、言い返す気にはなれなかった。「死ぬかと思った……」「大げさ」 軽く笑われたけれど、結構本気で苦しかったんだからね!?「……アクスタのこと、本当にごめん」「うん。わかってる」 彼女がオレの顔を指指す。「今すごい情けない顔してるし」 反射的に手で拭ってみると、汗なのかヨダレなのか鼻水なのか……。汚いなぁ。 彼女と再び視線を合わせると、二人で吹き出した。喉がカラカラになるほど爆笑したはずなのに、まだ笑いは出てくるみたいだ。「てか、あれ本当に限定版なの?」「うん。だけど、もうすぐ再販あるみたい」「は!? それ早く言ってよ……」「言ったら、反省しないでしょ?」 目を細めてイタズラっぽくに笑う彼女に、敵わないと思うのだった。 👏パチパチ 2025.10.12(Sun) 幼馴染
幼馴染の推しのアクスタを壊しました
「身体歪んでそう」
幼馴染がポツリとつぶやく。スマホから顔を上げると、真正面から目が合った。いつもは遊びに来たって勉強に夢中なのに、今日は違う。なんだか、珍しくオレを観察してる。
「そう? オレ、姿勢いい方だと思うけど?」
なんなら今オレより猫背で教科書読んでるくせに。さては自覚ないな?
「確認する方法あるんだけど……ちょっと寝て」
幼馴染はベッドを指さした。
年頃の男をそう簡単に自分の寝床にあげるなんて──と思いつつも、軽い好奇心に負けて仰向けに寝転ぶ。敷布団の柔らかさが背中を包み、微かに柔軟剤と彼女の香りが混ざった空気が鼻をくすぐる。
「逆」
「先に言ってよー」
ゴロンとうつ伏せになる。頬に当たるシーツが少しひんやりして、背中には視線の気配。
「ちょっと乗るよ」
言葉のあと、布の擦れる音とともに体重が乗っかった。胸の付け根あたりに膝が当たり、体温がじかに伝わってくる。
大した重さでもなかったけど、心臓がうるさいことに気づかれたくなくて、ぐぇーと声を出してみる。
「いてっ」
軽く叩かれた背中のあたりが、じんわりと温かい。そのまま幼馴染の手が動く気配がして、けれどすぐ止まった。
「ところで」
彼女の声が低くなり、空気がわずかに張りつめる。
「アクスタ壊したね?」
「……あれー? 身体歪んでるかの確認じゃなかったー?」
ケラケラと乾いた笑いを混ぜてみたけど、反応は返ってこない。
うわ、マジ気づくの早くない? 一時間かけてセロハンテープ貼ったのに。
バカでかいため息が聞こえた。熱っぽい息が背中に少し当たって、ちょっとだけ罪悪感が疼く。
「その、壊そうと思ったわけじゃないよ? ちょっと触ったらさ」
言い訳が空気に溶けて消える。視線を逸らすと、カーテンの隙間から午後の日差しが斜めに差し込み、白いレースの影が壁に揺れていた。
幼馴染には、小学生のころから応援しているアイドルの推しがいる。テレビ番組は全部チェックして、配信で聴けるのにCDを買って、握手会のために始発で出かけたこともあった。
オレはそれをずっと、あきれながらも横で見てきた。理解はできない。でも、真剣さは分かっていた。
「誕生日ケーキとアクスタでお祝いするつもりだったのに……」
あんな、ちょっと触っただけで折れるような板に描かれた推しと、推しが描かれたケーキを一緒に並べる。それが、彼女にとって最大の祝福らしい。でも、そんなのより誰かと食べながら、おめでとーって笑い合ったほうがよくない?
「オレが一緒に食べてあげるから! あいつのお面でも付けようか?」
「そういうことじゃない」
きっと今、彼女は眉間にわずかなしわを寄せて、唇を噛んでる。他の人が見たら無表情にしか見えないだろう。でも、オレには分かる。ブチギレているって。
「ほんとごめーん、新しいの買うから許して?」
「あれ限定版だから」
なるほどね。ピンチじゃん。
フリマアプリで探せばあるか……? いや、転売で買ったら、嫌がりそうだな……。
「まあ、過ぎたことを言ってもしょうがないよね」
幼馴染が背中をなぞってくる。いきなりの刺激に、身体がビクッと反応する。
あれ? これ許されるパターン?
「反省してる?」
「めっちゃ反省してます!!」
「じゃあ、『ごめんなさい』って言ってくれたら許すよ」
──笑わずにね。その一言が聞こえた瞬間、背筋がゾワッとした。
「うっはは!!」
理解する間もなく、口から笑いが溢れ出す。
「ちょ、待って!? あっはははっ!! たんまっ、たんまぁ!!」
何が起きたのか分かったのは、彼女の手が両腋に差し込まれてから数秒後だった。
冷たい指先が、シャツ越しに肌を探るように動く。息が詰まって、笑い声が勝手に跳ねる。
「ごめんっ、ほんとに、……ぁあっははははっ!!! おねが、ぃっひひ!? やめてぇえええ!!!」
「ちゃんと謝って?」
耳元で低く囁かれる。その吐息にさえ耐えれず、顔を背けてしまう。
必死に腋を締めようとするけれど、幼馴染の膝がちょうど邪魔な位置にあって、完全には閉じられない。
その隙間に、指先が容赦なく入り込んでくる。布と肌が擦れるたび、電流のような刺激が走った。
「むりぃぃ!! うひゃ!? そんなのっ……くっはははは!! あっ、やめ、っはははははっ! まじ、むりっ……あははっ!!」
尋常じゃないほど、くすぐったいんだけど!?
オレ、こんなにこちょこちょ弱かった!?
「じゃあ、許せない」
一瞬、指が離れた──と思った瞬間。
人差し指と中指が、腋の窪みのど真ん中に突き刺さる。
「ぶっははは!! そこやばっ!! ひゃっははははっ!!」
全身が勝手に跳ね上がる。背筋が弓なりに反り、ベッドのスプリングがギシッと悲鳴を上げた。
「ここ弱いんだ」
まずい!!
「ち、ちがっ、うぇへへ!? よわくっ、なぁっははは!! ぐっふふふ!!」
「ふーん」
口を押さえたって出た言葉は取り消せない。
指先はひっついたみたいに離れず、腋の窪みを弄んでくる。触られたくない箇所を、正確に、容赦なく。──ねちっこい幼馴染の性格が滲み出た攻撃だ。
「ぎゃっはははっ!! だめだめだめっ、んひひひひ!! おねがいっ、ひゃっはははは!!」
両手で拳を作って、ベッドに叩きつける。
パシッ、パシッと乾いた音。少しでもくすぐったさが逃げてくれたらと願うけど、無駄だった。
「んひゃはははっ!! ふっ、ふっははははは!! うへへ!? くるしっ……ぁあはははっ!!」
息が詰まり、視界が滲む。口の端からよだれが垂れ、それを拭う余裕もない。笑いと苦しさがごちゃまぜになって、世界が揺れているみたいだった。
「しょうがない」
ようやく指が弱点から遠のいた。咳き込みつつ呼吸を整える。
休憩もつかの間、腋と二の腕の境目あたりを親指でぐっと押し込まれた。
「ふふっ!!」
「これならいいでしょ?」
そりゃ、さっきよりはマシだけど……!
押されるたびに筋肉がピクッと跳ねて、笑いが漏れるのを必死でこらえる。でも、謝らない限りこのこちょこちょ地獄は終わらないんだろう。
「んっ……! ふっ、ごめっ、うひぃ!? ごめんなさいっ……!!」
言った!! 言えた!!
「何が?」
「うへぇ!?」
「何がごめんなさいなの?」
今日、意地悪すぎない!?
「ふふっ……あっ、アクスタ、くふふっ、こわしちゃって……」
「笑ってない?」
「わらってないぃ……! くひひっ!!」
「笑ってるじゃん」
グリグリと押し込む形から、なぞるような動きに変わる。せっかく刺激に慣れ始めていたのに、また最初からだ。
「やっ、ふふっ、もう……はははっ」
指先が一ミリでも動くたび、鳥肌が腕を駆け上がっていった。
「ほんとにっ、ごめんなさいぃぃ……!!」
その声を合図にしたみたいに、指が離れた。
身体がどさりとベッドに沈み込む。自分でも気づかないうちに、上半身を浮かせてたらしい。シーツの冷たさが頬から伝わってきて、呼吸が整っていく。
「大丈夫?」
幼馴染の声が、さっきよりずっと柔らかい。いつのまにか背中から降りていて、横から心配そうにこちらを覗き込んでいる。
誰のせいでこうなったと思ってるんだか。だけど、頭を撫でる手のひらが心地よくて、言い返す気にはなれなかった。
「死ぬかと思った……」
「大げさ」
軽く笑われたけれど、結構本気で苦しかったんだからね!?
「……アクスタのこと、本当にごめん」
「うん。わかってる」
彼女がオレの顔を指指す。
「今すごい情けない顔してるし」
反射的に手で拭ってみると、汗なのかヨダレなのか鼻水なのか……。汚いなぁ。
彼女と再び視線を合わせると、二人で吹き出した。喉がカラカラになるほど爆笑したはずなのに、まだ笑いは出てくるみたいだ。
「てか、あれ本当に限定版なの?」
「うん。だけど、もうすぐ再販あるみたい」
「は!? それ早く言ってよ……」
「言ったら、反省しないでしょ?」
目を細めてイタズラっぽくに笑う彼女に、敵わないと思うのだった。