寝たふりする幼馴染をくすぐったら妖しい雰囲気になった トイレから戻ると、幼馴染がカーペットに仰向けで寝転がっていた。 先程まで人が勉強している部屋に上がり込んでホラーゲームに興じ、『これめっちゃ怖いじゃん!! なんで無反応なわけ!? こわー!!』と大騒ぎしていたのに。あれだけのエネルギーはどこへ消えたのだろう。 彼のそばに膝をつき、しゃがみ込む。規則正しい寝息が聞こえてくる。穏やかな呼吸のリズムが、本当に気持ちよさそうに眠っていることを物語っている。「子どもみたい……」 思わず声が漏れた。本当に同い年、高校生なんだろうか? こうして無防備に眠る姿を見つめていると、胸の奥がむず痒く疼く。 あれは確か、中間テスト前。くすぐりに強くなりたいと言い出した彼に、特訓相手として付き合わされたとき。 あのとき初めて、今まで感じたことのない衝動がこみ上げてきた。もっと笑わせたい。もっと乱れさせたい──それ以来、バラエティ番組の罰ゲームでタレントがくすぐられているのを見るたび、イケナイものを覗き見している気分になった。 両親は特別厳しい人でもない。けれど、テレビで官能的なシーンが流れるとやはり気まずい空気が部屋に漂う。不思議なことに、くすぐりが行われてもそんな雰囲気は一切ない。誰も何も言わない。 それなのに、私ひとりだけ恥ずかしさで顔が火照って、理由をつけて席を外してしまうのだ。 もう一度、彼の顔に視線を落とす。あどけない寝顔。少し開いた唇。長い睫毛。あの特訓のことなど、とうの昔に忘れているのだろう。彼にとっては、ただの遊びの延長でしかなかったのだから。 私が、私だけが、くすぐりを意識して、くすぐりを検索して、くすぐりを夢に見るようになったのだ。思わずため息が漏れた。 ふと、彼の頬に埃らしきものがついているのが見えた。ほんの軽い気持ちで、ひょいと指先で掬い取った、その瞬間。 ビクッ。 彼の身体全体が、大きく震えた。予想外の反応に、私の手が空中で止まる。心臓が跳ねた。 数秒の静寂、不自然なタイミングでいびきが聞こえてくる。わざとらしいほど、規則的な寝息。 起きてる? そういえば、彼はこうも言っていた。『驚いたとこ見たことない気がするー、そういう感情消えたの?』とバカなことを。 もしかして、寝たふりで様子を見て、私が油断した瞬間に「わあっ!」と驚かせるつもりだったのだろうか。だとしたら、隣に膝をついたときがチャンスだったのでは? 私の口元に、ゆっくりと笑みが広がる。 この男が始まりのきっかけを作ったのだ、責任を取らせればいい。 指先が、彼の右腕に触れる。そっと、手首のあたりを掴んで引っ張った。途端に、腕に力が込められる。明らかな抵抗、寝ている人間の反応ではない。「寝てるなら力入らないはずだけど……変だね」 わざとらしく呟いてみる。 数秒の攻防。ここで観念すればいいものを彼は突然、諦めたように腕の力を抜いた。演技を貫くつもりらしい。 素早くもう一方の腕も掴み、両腕を横へ伸ばす。大の字の体勢になったところで、がら空きになった腋をじっと見つめた。 ゆっくりと──震える人差し指を、彼の右腋の中央に、そっと置いた。「ふふっ……!!」 一瞬で、彼の口角が持ち上がる。まだ何もしていない。ただ触れただけ。それなのに、笑いが漏れている。 私は息を潜めた。人差し指と中指の爪先を、皮膚に触れるか触れないかの位置に保ちながら上下に滑らせる。 羽根で撫でるような、弱い刺激。「っ……ん、っ……ふ……っ、ふ、くくっ……」 彼の両手がぎゅっと握りしめられる。笑いをこらえようと、全身に力が入っているのが分かる。 こんな微弱な刺激でも耐えられないなんて。もっと強くしたら、きっとすぐに──いや、ダメだ。それではあっという間に彼が『目を覚まして』しまう。このゲームが終わってしまう。 もっと、じっくりと。 指先を、二の腕寄りの腋の縁へ移動させる。今度は爪先ではなく、指の腹で。グニグニと、柔らかい皮膚を揉むように刺激する。「ぁっ……んん……っく……っ、ふっ……」 彼の呼吸が乱れる。顔を横に向けて、必死に表情を隠そうとしている。唇を噛んで、声を押し殺している。その様子が、たまらなく滑稽だった。「よく寝てるねー」 わざと声をかける。だって、まだ起きてほしくないから。 なぜだか胸の高鳴りが止まらない。名前のつけられない高揚感だ。 これは、勉強で難問が解けたときの達成感とも違う。推しのライブで盛り上がるときの興奮とも違う。もっと深いところから湧き上がってくる。 これは一体、なんなのだろう。「……ん、んっ……っく……ふは……」 彼の声に、私の意識が引き戻される。 視線が、ある一点に吸い寄せられる。腋の窪み──そこは、彼が最も苦手とする場所。くすぐり特訓のときだって、そこだけは一秒たりとも我慢できなかった。 人差し指の先を、その窪みの縁に添える。そして、ゆっくりと円を描くように。優しく、優しく。「……んっ!? く……っ、ふ……っ……ははっ……!」 声が大きくなる。明らかに、さっきまでとは違う。 今まで伸ばしていた両膝が曲がり、かかとがカーペットを踏みしめる。暴れだしたいのを全力で抑えているのだろう。 私は指を止めない。ゆっくりと、窪みの縁をなぞっていく。時計回りに、少しずつ。反応を確かめるように。 そして気づく。ちょうど六時の位置、窪みの下側あたりを指が通過するとき、彼の身体の震えが強くなることに。 ここだ。「ふ……ふぅ……っくくっ……!! っふ、ふっ……ふひっ」 彼の限界が近づいているのが分かる。 不思議なことに、彼が苦しそうにすればするほど、私の胸も締め付けられるように苦しくなる。息が詰まる。指先から伝わってくる彼の体温が、熱い。 人差し指の指先を、その窪みの下側に当てる。カリカリと、軽く引っ掻くように。「んあっ……!!」 彼の背中が、弓なりに反る。 その瞬間、発せられたのは笑い声、とはとても言えない熱が籠もっていて──。 まずい。 まずい、まずい、まずい。 さすがに、これは。なかったことにしたい。どうしよう、どうしたらいい。でも、手は止まらない。むしろ、無意識に中指と薬指も加わって、三本の指が窪みを激しく掻き立てている。「ひゃはははっ!! くすぐったいって!!」 彼の声が弾ける。ようやく、ようやく目を開けた。 私の指ごと挟むように腕を締め、そのおかげで責める動きが止まってくれた。 幼馴染の瞳が、私を捉える。鋭く、睨みつけるように。頬は紅潮して、息は乱れて、それでもその眼差しには明確な抗議の色が浮かんでいる。「くすぐんのはズルい……!!」「……寝たふりして驚かそうとするのが悪いでしょ」 平静を装って返す。声が震えないように、慎重に言葉を選ぶ。「もー、気づいても気づかないふりしてよー」 幼馴染は口を尖らせる。頬を膨らませて、子どもみたいに不満を表す。普段通りの、おどけた様子。 私も冷静に対応できているはず。表面上は。心臓が痛いくらいに音を立てているけれど、気づかれなければ、それでいい。「にしてもさー」 よっ、と彼が身体を起こす。 ふらりと、私の肩に顔を預けてきた。距離感がバグっているのは、今に始まったことじゃない。昔からそうだった。 でも、今は。今だけは、勘弁してほしい。「……なに」 視線を逸らす。窓の方へ、カレンダーの方へ、明後日の方向へ。どこでもいい、彼以外の場所へ。「あんな声聞かれちゃったら、もうお婿さんにいけないー」 ドクン。 心臓が、一度大きく跳ねる。背中を、冷や汗が一筋、伝い落ちる。「ははっ。耳まで真っ赤じゃん」 彼の笑い声が、至近距離で聞こえる。 今こそ母親に部屋へ入ってきてほしい。扉をノックする音を、今すぐにでも。けれど、外出中の今、その願いが叶うことはない。 逃げなきゃ。 立ち上がろうとしたところ、お腹に腕が回される。がっちりと背後から。逃がさない、とでもいうように。「顔見せてよ、動揺した顔みたい」 彼の声が、耳元で囁かれる。いつもより低い、聞いたことのないトーンで。 体温が一気に上昇していく。「痛い痛い痛い!!!」 咄嗟に、両手を幼馴染の顔に思いっきり押し当てた。この状況を打破する次の一手を考えながら。 👏パチパチ 2025.11.2(Sun) 幼馴染
寝たふりする幼馴染をくすぐったら妖しい雰囲気になった
トイレから戻ると、幼馴染がカーペットに仰向けで寝転がっていた。
先程まで人が勉強している部屋に上がり込んでホラーゲームに興じ、『これめっちゃ怖いじゃん!! なんで無反応なわけ!? こわー!!』と大騒ぎしていたのに。あれだけのエネルギーはどこへ消えたのだろう。
彼のそばに膝をつき、しゃがみ込む。規則正しい寝息が聞こえてくる。穏やかな呼吸のリズムが、本当に気持ちよさそうに眠っていることを物語っている。
「子どもみたい……」
思わず声が漏れた。本当に同い年、高校生なんだろうか?
こうして無防備に眠る姿を見つめていると、胸の奥がむず痒く疼く。
あれは確か、中間テスト前。くすぐりに強くなりたいと言い出した彼に、特訓相手として付き合わされたとき。
あのとき初めて、今まで感じたことのない衝動がこみ上げてきた。もっと笑わせたい。もっと乱れさせたい──それ以来、バラエティ番組の罰ゲームでタレントがくすぐられているのを見るたび、イケナイものを覗き見している気分になった。
両親は特別厳しい人でもない。けれど、テレビで官能的なシーンが流れるとやはり気まずい空気が部屋に漂う。不思議なことに、くすぐりが行われてもそんな雰囲気は一切ない。誰も何も言わない。
それなのに、私ひとりだけ恥ずかしさで顔が火照って、理由をつけて席を外してしまうのだ。
もう一度、彼の顔に視線を落とす。あどけない寝顔。少し開いた唇。長い睫毛。あの特訓のことなど、とうの昔に忘れているのだろう。彼にとっては、ただの遊びの延長でしかなかったのだから。
私が、私だけが、くすぐりを意識して、くすぐりを検索して、くすぐりを夢に見るようになったのだ。思わずため息が漏れた。
ふと、彼の頬に埃らしきものがついているのが見えた。ほんの軽い気持ちで、ひょいと指先で掬い取った、その瞬間。
ビクッ。
彼の身体全体が、大きく震えた。予想外の反応に、私の手が空中で止まる。心臓が跳ねた。
数秒の静寂、不自然なタイミングでいびきが聞こえてくる。わざとらしいほど、規則的な寝息。
起きてる?
そういえば、彼はこうも言っていた。『驚いたとこ見たことない気がするー、そういう感情消えたの?』とバカなことを。
もしかして、寝たふりで様子を見て、私が油断した瞬間に「わあっ!」と驚かせるつもりだったのだろうか。だとしたら、隣に膝をついたときがチャンスだったのでは?
私の口元に、ゆっくりと笑みが広がる。
この男が始まりのきっかけを作ったのだ、責任を取らせればいい。
指先が、彼の右腕に触れる。そっと、手首のあたりを掴んで引っ張った。途端に、腕に力が込められる。明らかな抵抗、寝ている人間の反応ではない。
「寝てるなら力入らないはずだけど……変だね」
わざとらしく呟いてみる。
数秒の攻防。ここで観念すればいいものを彼は突然、諦めたように腕の力を抜いた。演技を貫くつもりらしい。
素早くもう一方の腕も掴み、両腕を横へ伸ばす。大の字の体勢になったところで、がら空きになった腋をじっと見つめた。
ゆっくりと──震える人差し指を、彼の右腋の中央に、そっと置いた。
「ふふっ……!!」
一瞬で、彼の口角が持ち上がる。まだ何もしていない。ただ触れただけ。それなのに、笑いが漏れている。
私は息を潜めた。人差し指と中指の爪先を、皮膚に触れるか触れないかの位置に保ちながら上下に滑らせる。
羽根で撫でるような、弱い刺激。
「っ……ん、っ……ふ……っ、ふ、くくっ……」
彼の両手がぎゅっと握りしめられる。笑いをこらえようと、全身に力が入っているのが分かる。
こんな微弱な刺激でも耐えられないなんて。もっと強くしたら、きっとすぐに──いや、ダメだ。それではあっという間に彼が『目を覚まして』しまう。このゲームが終わってしまう。
もっと、じっくりと。
指先を、二の腕寄りの腋の縁へ移動させる。今度は爪先ではなく、指の腹で。グニグニと、柔らかい皮膚を揉むように刺激する。
「ぁっ……んん……っく……っ、ふっ……」
彼の呼吸が乱れる。顔を横に向けて、必死に表情を隠そうとしている。唇を噛んで、声を押し殺している。その様子が、たまらなく滑稽だった。
「よく寝てるねー」
わざと声をかける。だって、まだ起きてほしくないから。
なぜだか胸の高鳴りが止まらない。名前のつけられない高揚感だ。
これは、勉強で難問が解けたときの達成感とも違う。推しのライブで盛り上がるときの興奮とも違う。もっと深いところから湧き上がってくる。
これは一体、なんなのだろう。
「……ん、んっ……っく……ふは……」
彼の声に、私の意識が引き戻される。
視線が、ある一点に吸い寄せられる。腋の窪み──そこは、彼が最も苦手とする場所。くすぐり特訓のときだって、そこだけは一秒たりとも我慢できなかった。
人差し指の先を、その窪みの縁に添える。そして、ゆっくりと円を描くように。優しく、優しく。
「……んっ!? く……っ、ふ……っ……ははっ……!」
声が大きくなる。明らかに、さっきまでとは違う。
今まで伸ばしていた両膝が曲がり、かかとがカーペットを踏みしめる。暴れだしたいのを全力で抑えているのだろう。
私は指を止めない。ゆっくりと、窪みの縁をなぞっていく。時計回りに、少しずつ。反応を確かめるように。
そして気づく。ちょうど六時の位置、窪みの下側あたりを指が通過するとき、彼の身体の震えが強くなることに。
ここだ。
「ふ……ふぅ……っくくっ……!! っふ、ふっ……ふひっ」
彼の限界が近づいているのが分かる。
不思議なことに、彼が苦しそうにすればするほど、私の胸も締め付けられるように苦しくなる。息が詰まる。指先から伝わってくる彼の体温が、熱い。
人差し指の指先を、その窪みの下側に当てる。カリカリと、軽く引っ掻くように。
「んあっ……!!」
彼の背中が、弓なりに反る。
その瞬間、発せられたのは笑い声、とはとても言えない熱が籠もっていて──。
まずい。
まずい、まずい、まずい。
さすがに、これは。なかったことにしたい。どうしよう、どうしたらいい。でも、手は止まらない。むしろ、無意識に中指と薬指も加わって、三本の指が窪みを激しく掻き立てている。
「ひゃはははっ!! くすぐったいって!!」
彼の声が弾ける。ようやく、ようやく目を開けた。
私の指ごと挟むように腕を締め、そのおかげで責める動きが止まってくれた。
幼馴染の瞳が、私を捉える。鋭く、睨みつけるように。頬は紅潮して、息は乱れて、それでもその眼差しには明確な抗議の色が浮かんでいる。
「くすぐんのはズルい……!!」
「……寝たふりして驚かそうとするのが悪いでしょ」
平静を装って返す。声が震えないように、慎重に言葉を選ぶ。
「もー、気づいても気づかないふりしてよー」
幼馴染は口を尖らせる。頬を膨らませて、子どもみたいに不満を表す。普段通りの、おどけた様子。
私も冷静に対応できているはず。表面上は。心臓が痛いくらいに音を立てているけれど、気づかれなければ、それでいい。
「にしてもさー」
よっ、と彼が身体を起こす。
ふらりと、私の肩に顔を預けてきた。距離感がバグっているのは、今に始まったことじゃない。昔からそうだった。
でも、今は。今だけは、勘弁してほしい。
「……なに」
視線を逸らす。窓の方へ、カレンダーの方へ、明後日の方向へ。どこでもいい、彼以外の場所へ。
「あんな声聞かれちゃったら、もうお婿さんにいけないー」
ドクン。
心臓が、一度大きく跳ねる。背中を、冷や汗が一筋、伝い落ちる。
「ははっ。耳まで真っ赤じゃん」
彼の笑い声が、至近距離で聞こえる。
今こそ母親に部屋へ入ってきてほしい。扉をノックする音を、今すぐにでも。けれど、外出中の今、その願いが叶うことはない。
逃げなきゃ。
立ち上がろうとしたところ、お腹に腕が回される。がっちりと背後から。逃がさない、とでもいうように。
「顔見せてよ、動揺した顔みたい」
彼の声が、耳元で囁かれる。いつもより低い、聞いたことのないトーンで。
体温が一気に上昇していく。
「痛い痛い痛い!!!」
咄嗟に、両手を幼馴染の顔に思いっきり押し当てた。この状況を打破する次の一手を考えながら。